映画や舞台、テレビドラマ、配信ドラマ、ラジオドラマなど、さまざまなフィールドで頭角を現わしている田中俊介。彼が主演を務める舞台『ホームレッスン』が、紀伊國屋ホールにて上演される。今作についての意気込みなどを教えてもらった。
■今作は、“100の家訓”を持つ奇妙な家族を描く作品とありますが、脚本を読んでいかがでしたか?
「夢中になって一気に読んでしまいました。一度読み終えた時に、生きていくこと、誰かとつながることの難しさ、苦しさが詰まった作品だと感じ、心が揺さぶられました。こんな衝撃的な脚本を書く人は一体どんな人なんだろう?と思っていたんですが、実際に作家の谷碧仁さんとお会いしたら、すごく明るい方でビックリしました(笑)。とにかく、「こういう感情になったことがあるな」と思い当たることがたくさん描かれていて、どんどん作品の魅力に惹きこまれていきました」
■ビジュアルポスターや、あらすじだけでも、“違和感”がひしひしと伝わってきます。
「違和感、ありますよね。僕が演じる伊藤大夢が、婚約者である、武田玲奈さんが演じる三上花蓮の家に入り、暮らしを共にすることから話が始まるんです。でも、その家には100の家訓があるんですよ。それは笑ってしまうような家訓もあれば、“そんなことを禁止する?”というものまであるんです。そこに最初は大きな違和感を持つんですが、この家訓があることで家族を守っているという一面もあると気付くんです。それに、大夢は幼少期に虐待を受け、児童養護施設で育っていたので、家族に対する憧れが強くて、それもあって、どんなに違和感があっても、そこに順応、適合していこうと思って合わせていくんですよね。でも、そこからいろいろな秘密が明らかになり、どんどん歪んでいくんです。その描き方がとても生々しいんですよ」
■生きる道を人質に取られているからこそ乗り越えなくちゃいけないという物語は、すごくリアルですよね。
「本当にリアルです。この世に強い人間なんてごくわずかしかいなくて、基本的にみんな弱いと僕は思うんです。弱っていると何かにすがってしまう。この気持ちはすごく分かります。その心の支えの対象が家族だった場合、家族が世間的におかしな事をしていても、そもそも他人の家族のことなんて分からないから本当に自分の家族がおかしいのかすら分からない。心の支えからはなかなか離れられない…。今の社会の縮図のような作品になると思います」
■ネタバレにならないような家訓はありますか?
「第54条、相手の言葉をオウム返ししてはいけない。しょうもないですよね。それに、家訓ごとに破ったら課せられる点数が決まっていて、10点貯まると懲罰が与えられるんです。恐ろしいですよね。でも、こういった100個の家訓を定めていることには理由があるんです。この家族は分かりやすく家訓を定めていますが、きっとどの家庭にも、そういった暗黙の了解や決まりがあると思うんです。そう思うと、不自然なことではないのかなとも思ったり…」
■たしかに、そうですよね。そう思うと、お客さんの感想が楽しみですね。さて、演出のシライケイタさんと一緒に稽古をやってみていかがですか?
「シライさんはひとりひとりの芝居を決して否定せず、肯定しながら提案してくださる方です。なので、一緒に作り上げていく感覚が強いですね。そのおかげで、ものすごく楽しくモノ作りができています」
■言われて印象的だったことはありますか?
「“大夢を演じるのではなく、田中俊介だったらどう思う?”ということを言われた時に、自分自身を見つめ直すいい機会になりました。大夢を演じていると、新たな自分を発見することができるんですよ。より大夢の立場になって、自分自身の事として考えることで、視野も広くなりましたし、逆に“絶対にこういうことはしてはいけない”ということも考えるようになりました」
■紀伊國屋ホールでの上演となりますが、思い入れはありますか?
「2019年に『転校生』という舞台で紀伊國屋ホールに立たせていただきました。その時は、まだ演劇自体の経験値が少なくて、本当に必死だったんです。めちゃくちゃもがいていたので、自分の原点のような場所にまた戻るんだという、特別な思い入れがあります。もし3年前に僕のお芝居を観てくださった方がいらっしゃったら、成長や変化をお見せできたらいいなと思っています」
■最近では映像作品への出演も増えてきましたが、お芝居に対しての面白さも、より増えてきたのではないでしょうか。
「そうですね。幸運にも多くのみなさんと共演させていただきましたが、そこでわかったのは、第一線で活躍されているみなさんは、本当に人間的にも素敵な方ばかりだということなんです。いずれ自分もそういう人間になりたい、と強く思うようになりました。あとは、大河ドラマに出演したことで、親戚が見てくれたり、おばあちゃんが喜んでくれたりと、大きな変化もあったので、これからも幅広い作品にどんどん出演していきたいなと思っています」
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【共通テーマ音楽コラム「あなたにとっての癒しソング」】
緑黄色社会「陽はまた昇るから」
稽古に行く時や、料理をしながら聴いています。緑黄色社会の音楽って、すごく元気が出るんですよね。最近はカレーを作りながら聴いていました。カレーは一度にたくさん作り、翌日はドリアにしたりと、アレンジを楽しんでいます(笑)。
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【プロフィール】
田中俊介(たなかしゅんすけ)
1990年1月28日生まれ。愛知県出身。最近の出演作は、映画『向田理髪店』『僕と彼女とラリーと』『ミッドナイトスワン』、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、ドラマ「妻、小学生になる。」など。今後は、ドラマ「DORONJO/ドロンジョ」(10/7より毎週金曜23:00~WOWOWプライム他で放送)、映画『餓鬼が笑う』(12/24公開)、舞台『ケンジトシ』(2023年2月開幕)などが控える。
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Text 吉田可奈
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【STAGE Information】
PARCO PRODUCE 2022『ホームレッスン』
9月24日(土)~10月9日(日) 紀伊國屋ホール
作:谷碧仁
演出:シライケイタ
出演:田中俊介 武田玲奈 堀 夏喜(FANTASTICS from EXILE TRIBE) 宮地雅子 堀部圭亮