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    2024年7月20日 尾上右近×尾上眞秀 スペシャル対談

     8月31日(土)・9月1日(日)に大阪・国立文楽劇場、9月4日(水)・5日(木)に東京・浅草公会堂にて開催される「尾上右近 自主公演 第八回『研の會』」。今年の演目は、『摂州合邦辻』と『連獅子』とのこと。『連獅子』で親獅子を演じる右近さんと、仔獅子を演じる尾上眞秀さんとのスペシャル対談をお届けいたします。


    ■まずは今回の自主公演に対するご自身の想いをお聞かせください。


    尾上右近「今回の自主公演は、どちらも親の愛がテーマとなっておりまして、『摂州合邦辻』は母親の物語、『連獅子』は父親の物語となります。親の愛を軸に、歌舞伎に親しんでいただきやすい公演を目指して作っていきたいなと思っています。この年代で自主公演も回を重ねさせていただき、今回も多くの方々に協力していただいていますが、自分がやりたいことをやらせていただくことには責任が伴うということを痛感しております。この責任を、僕は楽しく担いたいなと思っています。責任を持つということはある種、自分の仕事に対する親心に近く、そういった自分が感じているものと今回の2演目と重なる部分があったので、今の自分にしかできない公演をまたやらせていただけるなという想いです。また毎回毎回思ってますけど、今回が一番気合いが入っています(笑)」


    ■出演者のみなさまへの想いもお聞かせいただければ幸いです。

    右近「尾上菊三呂さんはずっと僕を支えてくれている大事な存在ですけども、今回、菊三呂さん以外は初出演となります。“自分が観たい配役で観たい演目を”というのがコンセプトなんですが、今回もまたみなさんに出ていただくことを実現できて嬉しく思っています。その中の一人、尾上眞秀くんは同じ音羽屋で共に戦っていく仲間であり大事な存在です。今回は『連獅子』で仔獅子をやっていただきますが、自分も仔獅子を経験してきて、今回、親獅子を演じる上で、仔獅子は眞秀くんしかいないだろうという気持ちで声をかけさせていただきました。自分が圧倒的に主役の演目を選ぶことが自主公演で歩んできた道のりですが、こうして『連獅子』という二人の演目を敢えて選ぶというのも、今のタイミングでやってみたいことでした。相手を信じる、仲間を信じるということも今回ひとつのテーマだなと思っています」


    ■では、それぞれの演目についてのお話をお願いします。『摂州合邦辻』では主人公の玉手御前を演じられます。

    右近「義理の母親である玉手御前が、義理の息子に恋をする話です。このお話はいろんな捉え方がありますので、どういうつもりでやるのか?ということは喋らないでおきます(笑)。人間の心というのは、何が本当なのかな?というところがあると思うんですけど、玉手御前はすべて本当だと、僕は思うんです。義理の息子に恋をしたのも、助けたいと思ったのも本当だと思うし、大義のために生きるということも、どの一面を切り取っても本当の心がある役が玉手御前だと思うんですね。ひとつ言えることは、恋をして恋を貫いて、そして愛の花を咲かせて、散っていくというところに美しい玉手御前の姿があるような気がしていて。僕は以前、鶴松さんの玉手御前で、浅香姫のお役で出させていただいたことがあるんですけども、非常に仏教的なお芝居でもありまして。泥の上に咲く蓮の花は非常に美しい、それが仏教の心というところに繋がると思うんですけれど、玉手御前は本当に蓮の花のような人だなという印象を抱いておりますし、どの演目とも被らないような不思議な魅力があります。今回の初役での玉手御前は、菊五郎のおじさまがなさっている音羽屋型の玉手御前を自分なりに勉強し、最終的に菊之助のお兄さんに見ていただいてつとめます。今回大阪公演もありますが、これは大阪の物語なので、大阪のみなさんにも楽しんでいただきたいですし、その雰囲気を踏まえて東京に引っ提げて帰ってきたいと思います」


    ■続いて『連獅子』についてはいかがでしょうか?

    右近「僕は4人の親獅子に育ててもらった仔獅子でもあります。歌舞伎俳優の親を持つ役者ではないので、その分いろんな先輩方に育てていただいて、導いていただいた恩がありますが、『連獅子』という演目に関しては、4人もの親獅子と共演させていただいた仔獅子はいないんじゃないかと思いますし、これだけの先輩方と共演させていただけたというのは、自分にとっての財産、宝物だなと思っています。30代ではまだ早いだろうと言われていますが、自分のキャパ以上のことをやるのが研の會のテーマなので、親獅子という格のある、器の大きさを問われる役柄を敢えてこの年代で、今度は親獅子に回って、眞秀くんがつとめてくださる仔獅子に、自分が『連獅子』で得たエッセンスを伝えていく。そういう役割に回ってみたいなと思っている次第です。眞秀くんも僕と同じく親が歌舞伎役者じゃない同士の『連獅子』というのはなかなかないので、そこも今回ひとつのキーワードになっているなと感じています」

    ■ということで、ここからは尾上眞秀さんにも参加していただきたいと思います。よろしくお願いいたします!

    尾上眞秀「よろしくお願いします」

    ■右近さんは、眞秀さんにどのようにオファーされたのですか?

    右近「いつか『連獅子』は自主公演でやりたいなと思っていましたし、その時は絶対に眞秀くんに出てもらいたいという気持ちがずっとあったんですね。で、自主公演は10回でファイナルにしたいなと思っていましたけど、10回目にやるとなると、身長を追い越されている可能性があるなと(笑)。今しかできないタイミングというのもありますし、親子の物語ですから、眞秀くんのタイミングを考えた時に、じゃあ今年しかないかな?ということで声をかけさせていただきました。以前に眞秀くんは『連獅子』をあまり観ないという話を聞きまして。親子の話なので悔しくなったり哀しくなったりすると聞いて、僕もその気持ちがすごく分かったんですよ。その気持ちをここまで深く共感できる役者は僕しかいないだろうと自分でも思ったんですよね。でも、その自分にしか分からない感情っていうのは武器になると思うし、人間を表現する役者という生業において、誰とも共有できない気持ちは自分にしかできないということに繋がるなと思ったし、それを二人で共感できる『連獅子』を、一緒にと思い、(寺島)しのぶさんにご相談したら“ぜひとも”と喜んでくださったので、良かったなと思いました。眞秀くんはどう思ったの?」

    眞秀「嬉しかったです。母からも“絶対にここでやっておいたほうがいいよ”と言われました」

    ■眞秀さんが考える『連獅子』の見どころをお願いします。

    眞秀「激しいところとゆっくりなところがあって、それが切り替わるところがすごく面白いです。(練習用の)衣裳とカツラをつけて本番っぽい感じでお稽古していて、その重さにも今ちょっとずつ慣れてきているので、頑張っていきたいです」

    ■眞秀さんから見て、右近さんはどんな方?

    眞秀「とにかく踊りが上手で、気を遣ってくれる人。すごく優しいし、面白いです」

    右近「お稽古してると、よく一緒に笑ってるよね。お互いに気持ちが分かるから、今こう思ってるでしょ? 図星!みたいな感じでね(笑)」

    ■では、右近さんから見た眞秀さんはどんな方ですか?

    右近「活発で男の子らしい男の子。何事にも興味を持って身体を動かすのが好きで健康的だし。でも眞秀も気ぃ遣いじゃない? けっこう敏感に気を遣ってるなって感じることがありますね。僕も伸び伸びと育ててもらったけど、気を遣う瞬間というのも当然あったし、そういう時期があって良かったなと思えます。子供なんだから気を遣わなくていいよと言われることもあるかもしれないけど、でも同じ世界の仲間としては、それも大事なことだからね」

    ■お互いの共通点はありますか?

    右近「趣味は全然かぶらないね。眞秀はアニメ大好きだけど僕は全然分かんない」

    眞秀「僕は『ONE PIECE』とか好きです」

    右近「僕も『ONE PIECE』は好きだな(笑)」

    眞秀「前は『ドラゴンボール』が好きでした」

    ■そういえば右近さん、先程の撮影で「かめはめ波」を出していましたね(笑)。

    右近「眞秀からポーズのリクエストがあったので出しました(笑)」

    ■眞秀さんから右近さんにお伝えしたいことはありますか?

    眞秀「右近さんは踊りが上手いので食らいついていきたいです」

    右近「嬉しいですね。一緒に頑張りましょう!(握手!) ところで、『尾上眞秀』を襲名して1年経ちましたけど、どんな感じですか?」

    眞秀「安定してきた感じです」

    右近「僕なんか『尾上右近』という名前に慣れるまで5年くらいかかりましたよ(笑)。では眞秀くんにとって『連獅子』ってどんな演目ですか?」

    眞秀「野獣みたいな……野生の親子のイメージです」

    右近「まさに眞秀くんが言うように、静と動が本質的なところでもあるんですよね。あと今回は毛ぶりも初めてなんだよね? どんな感じですか?」

    眞秀「ちょっとずつ毛の重さに慣れてきました」

    右近「眞秀くんも自主公演をやってみたいと思ったりしますか?」

    眞秀「やってみたい!(笑顔)」

    右近「いいね。出させてください!(笑)。そして眞秀くんは、どんな役者になりたいの?」

    眞秀「お客さんを楽しませる役者になりたいです」

    ■右近さんは稽古場で眞秀さんの成長を見ていて感じることは何ですか?

    右近「教えていただくことは財産ですが、教えること伝えることも財産だということをヒシヒシと感じる良い時間になっています。眞秀くんを信じることは自分を信じることでもあるし。お稽古を見ていて、やりたかったんだという気持ちが伝わってくるんですよね。僕もそうだったんですよ。そういう過去の自分と重なる部分があるので、今回はどんどん一緒にのめり込んでいきたいなと思っています。僕も不完全でまだまだだけど、今の段階で伝えられることを伝えるというところで、一緒に挑戦するということが僕のスタンスでもありますし、眞秀くんが食らいついていけるようにと思っていることも嬉しいし、食らいつき甲斐のある親獅子をやりたいなという気持ちです」

    ■右近さんから仔獅子に伝えたいことはどんなことですか?

    右近「言葉ではなく気持ちで身体で、空気で伝える。眞秀くんと稽古していても、目と目が合えばきっと通じ合っていますし、確認することも野暮なのでね。お客さんにも、僕が子獅子として味わった瞬間を空気として感じていただきたいし、眞秀くんにも味わってほしいです」

    ■今回のテーマが「親の愛」ですが、そう聞いて思い出すものは何ですか?


    右近「僕は誕生日かな? 両親のおかげで今の自分があるということを深く感じるようにしていますね。根本的に出会った人への感謝を持つということの大切さを教えてくれるのは両親だから、そこに対する親の愛に気づくタイミングっていうのが誕生日でもあります。昔はお祝いしてもらってましたけど、最近は感謝を伝える感じになってきてるかな?」

    眞秀「僕も誕生日です。家に友達を呼んで、遊んで、プレゼントをもらって。すごく楽しい日です」

    ■誕生日といえば、本公演が終わって、9月11日で12歳になりますね。その時にはどうなっていたいですか?

    眞秀「心が大人になっていたいです」

    右近「『連獅子』を経験するからこそ成長する部分ってあるだろうね」

    ■では歌舞伎初心者の方へ見どころを教えてください。

    右近「歌舞伎は思った以上にメンタルが暴れん坊なのですごくダイナミックだし、その中に繊細な部分もあって、ダイナミックさとの振れ幅が大きいんですよね。『摂州合邦辻』はドロッとした話ではありますけど、最後にカタルシスがあるお芝居。思った以上に歌舞伎は人間らしいものを描いています。そして『連獅子』では子供を崖から突き落として這い上がった子だけを育てるという獅子のスパルタ教育の物語で、親と子の情を描いたドラマでもある。と同時に後半は獅子になるという、理屈の部分と理屈じゃない部分が表裏一体となっているんですよね。見た目が面白いというところもあるし、多面体であるのが歌舞伎の魅力なので、手放しで観に来ていただけたら、楽しんで満足してお帰りいただけると思います」

    ■お話は変わりまして、眞秀さんはもうすぐ夏休みですね。宿題もあるのでは?

    眞秀「あります。夏休みの最後にやります(笑)」

    右近「そうだよね。先にやる人なんてこの世にいるんだろうか?」

    ■右近さんも最後にやるタイプでした?

    右近「僕は完全にぎりぎりアウトでした。怒られましたね~」

    ■眞秀さんはそんなことないですよね?

    眞秀「アウトはないです。下書きを早めに終わらせて、いつでも清書できるからずっとやらなくて、最終日の夜中から始業式の朝くらいに書きます」

    右近「ぎりぎりセーフだね(笑)」

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    共通テーマ音楽コラム「あなたにとっての夏ソング」

    井上陽水&玉置浩二「夏の終りのハーモニー」
    ミュージカルコンサートに出させていただいた時に、中川晃教さんと2人で歌わせていただいた曲。めちゃくちゃ緊張して、一瞬嫌いになりそうだったんですけど(笑)、無事に歌うことができて、もっと好きになりました。夏が始まる前から聴いちゃいますね。(右近)

    Vaundy「怪獣の花唄」
    Vaundyさんはカッコいいし、音が好きなので、この夏たくさん聴くと思います。夏休みは、フランスのおばあちゃんの家に行って一緒に過ごします。右近さんも連れて行ってあげたいです(眞秀)

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    【プロフィール】

    尾上右近(おのえうこん)
    1992年5月28日生まれ。7 歳で初舞台。12歳で二代目尾上右近を襲名。2018年に清元唄方の名跡、清元栄寿太夫を襲名し歌舞伎界の二刀流として活動する花形歌舞伎役者。ミュージカル、ドラマ、バラエティなど多方面に活躍。映画「燃えよ剣」で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。今秋には映画『八犬伝』、『十一人の賊軍』の公開が控える。

    尾上眞秀(おのえまほろ)
    2012年9月11日生まれ。2023年5月2日より『歌舞伎座新開場十周年 團菊祭五月大歌舞伎』にて尾上眞秀を名のって初舞台を踏み、歌舞伎役者としてのキャリアを正式にスタートさせた。俳優としても活動しており、主な出演作は、ドラマ「ユニコーンに乗って」「PICU 小児集中治療室」、大河ドラマ「どうする家康」など。


    【クレジット】

    Photo  大川晋児(Sirius)
    Text 三沢千晶
    Hair & Make-Up 白石義人
    Styling 中川原有(尾上眞秀)


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    【STAGE INFORMATION】

    『尾上右近自主公演第八回「研の會」』

    https://www.onoeukon.info/category/kouen/


    【大阪公演】 会場:国立文楽劇場
    2024年8月31日(土)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
    2024年9月01日(日)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演


    【東京公演】 会場:浅草公会堂
    2024年9月4日(水)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
    2024年9月5日(木)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演

    ◆演目
    一、   摂 州 合 邦 辻 合邦庵室の場
    玉手御前 尾上右近
    俊 徳 丸 中村橋之助
    浅 香 姫 中村鶴松
    母おとく 尾上菊三呂
    奴入平 市川青虎
    合邦道心 市川猿弥

    二、  連 獅 子
    狂言師右近/後に親獅子の精 尾上右近
    狂言師左近/後に仔獅子の精 尾上眞秀
    法華の僧蓮念(大阪公演) 市川青虎
    法華の僧蓮念(東京公演) 中村鶴松
    浄土の僧遍念(大阪公演) 市川猿弥
    浄土の僧遍念(東京公演) 中村橋之助

    ◆料金
    【大阪】特別席(特典付きチケット) 23,000円/1等席 13,000円
    【東京】特別席(特典付きチケット) 23,000円/1等席 13,000円/2等席9,000円/3等席5,000円