7月期ドラマ「競争の番人」では検察官の緑川瑛子を演じた大西礼芳が、2020年に起こった幡ヶ谷バス停殺人事件をモチーフとした映画『夜明けまでバス停で』に出演。板谷由夏演じる主人公の三知子がバイトする居酒屋の店長・寺島千春を演じている。千春とどう向き合っていったのか、また先輩方からの刺激など、楽しいエピソードも含めてお話いただきました。
■映画はコロナ禍で実際に起こった事件をモチーフにしていることもあり、とてもリアルで、つらい気持ちになったりもしたのですが、ユーモラスな場面も散りばめられていて、最後まで集中して観ていました。自尊心が故にホームレスになってしまう主人公・三知子の気持ちもよくわかりますし、大西さんが演じられた千春が務める居酒屋の様子も、社会の縮図のように感じていました。大西さんご自身は、どんな気持ちで出演されていたのですか?
「映画への出演は撮影の1年前からわかっていたんですが、どういう題材で撮るのかわかったのが、結構直前だったんです。脚本に書かれていたのがコロナ禍などつい最近起こったことなので、これを演じること、映画にするってことにすごく緊張したんです。責任が生まれるというか、慎重に立ち向かわなければいけないことだなと思ったんですよね。でも、描かれていたことが、こういう状況になってしまった人達への希望が見える内容だったので、それはすごく嬉しかったです」
■たしかに希望があることが救いでした。映画を観ていて救いの1つになっていたのが、大西さんが演じた千春の存在です。正義感が強く、弱い立場であるアルバイトの人達のことも気にかけていて。この子が何かやってくれるのでは?という希望を持ちながら見守っていました。
「ありがとうございます。ただ、その正義感も最初からあったものではなくて、千春が三知子さん達従業員の方と接していく中で徐々に芽生えていったものなんですよね。最初からみなさんとの会話だったり気持ちをちゃんと拾っていけば、たしかな関係性を築けていたかもしれないのに、コロナ禍前はそれを若干怠っていたんですよ。だからちょっと距離がある描かれ方をしていたと思うんです。それがコロナ禍になってものすごいスピードでいろんなことが変化していって、千春も変わるべき時を待っていたというか、見定めようとしていたのかな?って思うんですよね」
■どんな気持ちで演じていましたか?
「立場としてはチェーンの居酒屋の店長なので、肩書きとしてはとても安全な場所にいるように思われてしまうかもしれないんですけど、実はそうじゃなくて、コロナは関係なく、千春もずっと不安定な場所に立っているんですよね。だから従業員の方々と同じフィールドにいるんだという気持ちで演じてきました。従業員の視点だと、正社員だし給料がいいと思われてしまうかもしれませんけどね」
■千春が自分から進んで三知子のアトリエに連れて行ってもらったりするところは、千春の素直さが出ていて、とてもかわいいところもあるのだなと感じました。
「そうですね。もしかしたらそのシーンも、どうやったらみんなと距離を縮められるかな?と考えていたかもしれないですね。でも、距離の詰め方が上手じゃないというか。ものすごく距離をとっていたはずなのに、急激に縮めてくるというところは不器用ですよね。そういうところも彼女の好きなところではあるんですけれど」
■大西さんご自身と通じる部分はありましたか?
「まさに不器用なところがそうだと思います(笑)。自分から生きづらいところに入っていく癖があるかもしれないな…」
■(笑)。
「もっと簡単に、ホップステップジャンプと行けるところを、地道にやっていったほうがいいと決め込んでしまっているところがあって。でも千春は、変わらなきゃいけないっていうポイントを見つけられた時に、ものすごく早く切り替えることができて、すごいなと思います」
■しかも、勇気がありますよね。
「それまで壊そうとしてこなかった壁があって、でもその壁を壊すのが自分だけのためだったら壊さなかったけど、他の人達のためだったら壊せるっていうところもすごいし、素敵だなって思いますね」
■アトリエでアクセサリーを作っている時に、三知子が(アクセサリーに使う)石の意味を語るシーンがありますよね。三知子が千春をチラッと見て「友情」と言った、あの瞬間に千春の中で何かが開いたような気がします。
「開きましたね。私、あのアトリエのシーンがすごく好きで。そこまで居酒屋という仕事場のシーンばかり撮っていたので、千春がやっと人間らしいところを見せられる場所に立てたなって気がしたんですね。だから“友情”という言葉を聞いただけで、泣きそうになってしまって。あの瞬間、ものすごく心に刺さったんですよね。こっちが心を開いて、三知子さん達も心を開いてくれていたからこそ繋がったシーンです」
■撮影自体も楽しめたようですね。
「ものすごく楽しかったです。大ベテランの方達に囲まれて、普通は緊張すると思うんですけど、みなさん優しくて全然緊張しませんでした(笑)」
■板谷さんとご一緒されていかがでしたか?
「板谷さんとは初めてだったんですけど、最初にご挨拶させていただいた時からまったく気取ったところがない方で、すぐに心を開いてくれたって感じたんですね。撮影の合間にもたくさんお話させていただいていたんですけど、撮影が始まる前とスタートがかかってからの差があまりなくて。私も気張らずにセリフを発せられたんですよ。それは板谷さんのおかげだなって思います」
■映画の中でも、お姉さんと、姉を慕う妹のように映っていましたよ。一方、居酒屋のマネージャー役の三浦貴大さんは、イヤなヤツを一手に引き受けていらっしゃいましたね。店長である千春とは、居酒屋の事務所で対峙するシーンなどもありましたね。
「私自身、いろんな情報を捲し立てないといけなかったので緊張しました。興奮状態ではあるけれど、相手を追い詰めないといけなかったので、冷静でいる自分と怒りの感情で興奮している自分の両方を持ち合わせてやるべき芝居かな?と思いながら演じていました」
■三浦さんからも何か刺激をもらいましたか?
「三浦さんは傍で観ていて面白かったです。私自身、その日の撮影が終わったあと、どうしても残って観たいシーンがあって。マネージャーが三知子達に待ち伏せされて、ゴミをかけられるところなんですけど。普通ゴミをかけられたらイヤだと思うんですけど、三浦さんは楽しんでいるようにも見えたんですよね。それが、悪役ではあるけれど観てる人を本当にイヤな気持ちにさせない要素の1つなのかな?って思ったんです。私も悪役をやることが多いので、また悪役だ~と思ってしまうこともあって(笑)。観てる人に本当に嫌われるかもしれないと思って、悪く演じることが怖いんですよ。それって役者が持つべき感情ではないとは思うんですけどね。だから振り切ってやれるのはすごいなぁと思って、三浦さんの演技を近くで拝見していました」
■その経験は、今後の悪役に生かせそうですか?
「もう割り切って、振り切って楽しんでやってみたいです(笑)」
■監督の高橋伴明さんとは、大西さんのデビュー作である映画『MADE IN JAPAN~こらッ!~』(2011)でご一緒されているんですね。
「そうなんです。その後、『痛くない死に方』(2021)で10年ぶりにご一緒させていただいて、今回で3度目なんです」
■高橋監督の現場ならではの雰囲気や、演出の仕方などはありますか?
「とにかく撮るのが早いんですよ。なのでそれは覚悟して現場に行きました。何も考えずに撮影に入ってしまうと何も考えない姿ままの芝居が映ってしまって、それでOKが出てしまうので、そのスピード感についていけるようにちゃんと準備をして、でもあまり決めすぎずに行くようにしています」
■高橋監督からは今作に関するお話やアドバイスなどはありましたか?
「何もないです(笑)。“質問あるか?”と聞かれて、 “ないです”って言ってしまって(笑)、自分で考えようと思いました。伴明さんはいつもそうなんですよ。本当に迷ったら聞きますけどね。今回は、バス停でのシーンで1つ気になるセリフがあったので、こういうセリフに変えたらどうでしょうか?と提案させていただいて」
■そしたら?
「“うん、いいよ”と言われました。脚本家の梶原阿貴さんも現場にいらしたので、相談しながらセリフを考えたんですよ。それは私にとって、大きな一歩だったかな」
■勇気を出して言って良かったですね!
「はい(笑)。提案の仕方はものすごく考えましたけどね」
■大西さんって、この件に限らず、かなり思慮深い方なんですね。かなりじっくり考えてから言葉にしたり、動くタイプなのかな?と。
「そのとおりですね。すっごい考えるので、めちゃくちゃゆっくりになるんですよ(笑)」
■今作を経験して得たもの、また次への目標などは見つかりましたか?
「人ありきで創っているものなので、出会いは大きいと思います。大先輩達が手を差し伸べてくれたというか、対等に接してくださったことを忘れずに、これから私も映画を創る中で人と接していきたいと思います。あとは、ものすごく常識的な方々が作中では暴れていらっしゃっていて。特にホームレス役の方々(根岸季衣さん、柄本明さん)なんですけど、ビックリしました。脚本どおりのことを言っているはずなのに、ものすごく質量が増えて、映像に映っていてすごいなと思いましたね。そういう役者になれたらいいなと思っています」
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【音楽テーマコラム「スポーツをする時に聴きたい1曲」】
久石譲「KIDS RETURN」
映画「キッズ・リターン」(北野武監督)のテーマ曲です。この曲を聴くと走り出したくなります。以前アクション映画に出演させてもらった際に自宅で筋トレとシャドーボクシングをしていたんですが、その時に自分を鼓舞するために聴いていました(笑)。
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【プロフィール】
大西礼芳(おおにしあやか)
1990年6月29日生まれ、三重県出身。最近の出演作は、ドラマ「競争の番人」「古見さんは、コミュ症です。」「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」、映画『MIRRORLIAR FILMS Season4 「バイバイ」』『地獄の花園』『花と雨』、舞台『とりわけ眺めの悪い部屋』など。今後は、舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』(11月23日より東京芸術劇場プレイハウスにて開幕)などが控える。
公式HP https://tristone.co.jp/actors/onishi/
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【クレジット】
Photo コザイリサ
Text 三沢千晶
Hair&Make-up 廣瀬瑠美
Styling 田中トモコ(HIKORA)
Costume ワンピース(IN-PROCESS Tokyo/SUSU PRESS/ 03-6821-7739)、右耳イヤリング、ブレスレット、左中指リング(e.m./e.m. 青山店/03-6712-6797)右手リング、ピンキーリングにしたイヤーカフ、左耳イヤーカフ (NOMG/info@nomg.jp)
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【MOVIE Information】
映画『夜明けまでバス停で』
10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ他全国順次公開
監督:高橋伴明
脚本:梶原阿貴
音楽:吉川清之
主題歌:Tielle 「CRY」(ワーナーミュージック・ジャパン)
出演:板谷由夏
大西礼芳 三浦貴大 松浦祐也 ルビーモレノ 片岡礼子 土居志央梨
柄本佑 下元史朗 筒井真理子 根岸季衣 柄本明
配給:渋谷プロダクション
制作会社:G・カンパニー
© 2022「夜明けまでバス停で」製作委員会
公式サイト:https://yoakemademovie.com/
公式ツイッター:https://twitter.com/yoakemade_movie
公式Facebook:https://www.facebook.com/yoakemademovie
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