芽が出なかった20代、信頼を得た30代、そして花開いた40代。
常に謙虚に泥臭く歩み続ける喜劇俳優の行く先とは――。
きっと、多くの人が“ムロツヨシ”と聞いて、その“クセの強さ”を想像することだろう。それは間違いなく、これまでの彼のお芝居を見ても感じることができる“わかりやすい”個性だ。しかし、彼のこれらの“クセ”は、何度もインタビューで接するたび、ムロが自ら仕掛けたものだということに気づく。彼は、毎回こう話すのだ。「まずは、“ムロツヨシ”のしつこさを体感して、“もう嫌だ”と思った先にあるおもしろさを感じてもらいたい」と。
ことあるごとに“喜劇役者”でありたいと話し、その強い信念のもとにお芝居をしてきた彼は、言葉通り、観ている人を笑顔にし、時にいい意味で混乱させる。しかし、彼が主宰する舞台シリーズ『muro式』では、毎回思いきり笑わせた後に、大きな問題提起をしつつ、泣かせるお芝居も見せてくれるのだ。開催される場所も個性的で、2019年に行なわれた『muro式.10「シキ」』では、よみうりランドのアシカショーが行なわれるホールでお芝居をし、クライマックスには舞台上から抜けて見える夜空に大きな花火が打ち上げられたり、『muro式9.5「答え」』では「梅若能楽学院会館」という能楽の舞台で1人芝居を行なったりと、常に規格外。自由な発想と共に、自らを極限まで追い詰め、やりたいことをちゃんと具現化していく姿はとてもストイックだ。ただ、「ストイックですね」とこちらが声をかけると「そんなことないです、やりたいことをやっているだけです」と謙虚に笑う。
よく、波乱万丈の人生が話題になることがあるが、彼が持っているバックグラウンドを、ムロ自身は「この世界で生きるための武器になっている」と笑いながら話してくれる。以前に黒柳徹子さんから言われたことから、そう思うようになったとも話してくれたが、すべての出来事をフラットに受け止めながらも、幼少期から育んできた“自分はここでどうあるべきか?”への判断力は、お芝居をするにあたって、大きな長所となっていることだろう。
今年の1月期に放送され、伊藤英明と共演したドラマ「病室で念仏を唱えないでください」時に話を聞くと、「僕と伊藤英明さんは、同じ学年なんです。だからこそ、僕がまったく売れずに、アルバイトをしていた20代後半の時に、『海猿』で主演を張っていた伊藤さんを観て、悔しくて仕方がなかった。どうして僕はそこにいないんだろう?と思っていた」と教えてくれた。それから10年以上の年月が経ち、一度も共演をしないまま、40代となり、お互い同じ立場で、セリフを掛け合う役まで上り詰めた彼は、「本当にうれしい」と素直に笑顔で答えてくれたのだ。その時の言葉が、とても、とても印象的だった。
彼が“喜劇役者”でありたいと思っているからなのか、過去の苦労話もすべて笑いに変えているように思う。映画監督やスタッフさんに名前を覚えてもらう為に鍋を振る舞い、自分の名前を連呼していたというエピソードは有名だが、それもすべて、自分の夢を叶え、より多くの人を笑顔にしたいと願っていたからこそ。まったく芽が出なかった20代、そして自分らしくいるために立ち上げた舞台『muro式』。信頼を得た30代。そして花開いた40代。彼のお芝居に対する想いと、その想いに心を掴まれ、夢中になったファンの人たちと共に、今後もムロは自分らしく、コミカルで、でも泣ける、他の追随を許さない個性派俳優として活躍し続けるに違いない。
そんなムロがこの夏、『親バカ青春白書』で主演を務めている。今作では、東大出身かつ、ベストセラー作家、そしてシングルファーザーという主人公・小比賀太郎(通称:ガタロー)を演じる。ガタローは永野芽郁が演じる愛娘・さくらが好き過ぎて同じ大学に入学するというとんでもない設定だが、福田雄一が脚本統括、監督と聞いて納得。ムロツヨシのクセの使い方を分かりきっている福田監督が、自由に、そして厳しく(?)仕上げた今作は、1話目からハートウォーミングでとびきりぶっ飛んだ内容に仕上がっていた。他の共演者も、中川大志、今田美桜、戸塚純貴、小野花梨に平埜生成と若手実力派が揃い、濱田めぐみ、野間口徹、新垣結衣の豪華ラインナップ。さらには『今日から俺は!!』に出演している“福田組”の俳優が毎週ゲストとして参加している。
まさに“喜劇”である今作に出演するムロは、このコロナ渦で始まった撮影について「喜劇ですから楽しくなければ意味がないので、感染対策はしっかりと務めながらも、今着用しているフェイスシールドも面白話にするのは大事なのかなと思っています。そんな今だからこそ、楽しく親子ドラマを作れたら、観てくれる人にも何か伝えられたら嬉しいです」とコメント。さらに、娘役の永野に対しても、すでに“親バカ”を発揮しているようで、「もう、笑顔がかわいいです! 目が合っただけで笑ってくれるし、ずっと笑ってくれるので、お父さんとして、もう、これ以上のやりがいはないです。いつも脚本に異物を入れるようなこともしていますが、今回は全くしてません!『何かおかしなことをやろう』とか『人を感動させよう』など考えずに、自分がまずのびのびお芝居をして親子ドラマに努めることが一番かなと感じています。そうすることで、周りの若い子たちも楽しんでもらえるのかなぁと思っています。そして、のびのびやらせてもらっていることに、“娘”には感謝しています。『どうやったらこの子のお父さんになれるだろう』と考えることなく、『この子のお父さんで良かった』と、毎日自然と思ってます(笑)」と活き活きと語っている。
演じる“ガタロー”に対して、福田監督から「いつも通りのムロくんをイメージしていたので、それだけです」と言われたからこそ、のびのびとやろうと決めたんだとか。確かに、1話からもすでに、のびのびと楽しくやっている姿を堪能できる。果たして、今作で描かれる親子関係がどう展開していくのか、注目したい。
謙虚に、常に向上心を忘れず、そして泥臭く、前に進み続けるムロツヨシ。今後はどんなお芝居を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。
Text ⇒ 吉田可奈
Photo ⇒ 後藤倫人
・・・
【Drama Information】
日本テレビ系 新・日曜ドラマ「親バカ青春白書」
脚本統括・演出:福田雄一
脚本:穴吹一朗
音楽:瀬川英史
チーフプロデューサー:池田健司
企画・プロデューサー:高 明希
プロデューサー:鈴木大造(クレデウス) 白石香織(AX-ON)
出演:ムロツヨシ 永野芽郁 中川大志 今田美桜 戸塚純貴 小野花梨
谷口翔太/濱田めぐみ 野間口徹 新垣結衣
主題歌:ゆず「公私混同」(セーニャ・アンド・カンパニー)
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
【Photo Gallery】