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    2020年9月22日 鹿賀丈史 ミュージカル『生きる』インタビュー    


     黒澤明監督の名画『生きる』を原作としたミュージカル『生きる』が、2年ぶりの再演となる。初演から主演を務める鹿賀丈史(市村正親とWキャスト)が、“渡辺勘治”という役を通じて思うこととはーー? そして、今の時代だからこそ響く、『生きる』というミュージカルへの想いを語っていただいた。

    ■再演決定を受けての感想をお願いします。
    「一昨年の初演が終わってすぐに再演の話が持ち上がったとのことだったので、初演の出来が相当高かったのかな?というのと、お客様に受け入れられたのかな?という想いもあり、非常にうれしかったですね。そして、初演とはまた1つ深まった、そういう芝居を志していきたいなという想いもありました」

    ■今回も市村正親さんとのWキャストとなります。再演に関してお2人でお話になられましたか?
    「いやいや、舞台のことに関してはまったく話してないんですけども、こういうご時世ですからお互いに電話はしていて。いっちゃん(市村)から“どうしてる?”なんて言って、かかってくるんですよ。自粛ということで、僕の場合は1人でいる時間をゆったりと過ごしていることが多いんです。でも人間はやっぱり動いていたほうが元気になりますからね…という話をしていました。いっちゃんのほうは、子供の勉強を見たりとか、やることがいっぱいあって“忙しくて大変だよ”って(笑)。まぁ相変わらずだなという感じでしたけどね」


    ■渡辺勘治を再び演じることに対しては、どんな想いでいらっしゃいますか?
    「とても喜びを感じています。そもそも、大いなる創作ミュージカルであるということ自体が素晴らしいですからね。1952年、僕が2歳の時に大ヒットした黒澤明監督の映画を基にしているということ自体、やっぱり基礎がしっかりとしている作品であり、それをミュージカルにするなんて、言ってみれば大胆な発想だと思うんです。それを、宮本亞門さんの演出であるとか、ジェイソン・ハウランドさんの作曲であるとか、高橋知伽江さんのセリフや歌詞であるとか、そういうものが思った以上にフィットしたといいますか。ある意味、実験的な舞台でもあったと思うんですよ。それがお客様に受け入れられたということは、この時代においてすごく大きなことだと思いますし、ミュージカルの可能性も膨らませた舞台だと思うんです。そういう作品に関わることができていること自体がうれしいことですよね」

    ■ちなみに、映画はいつ頃にご覧になりましたか?
    「それがね、黒澤さんの作品はいっぱい観ているんですけれど、『生きる』は観てなかったと思いますね。このお話が決まってから初めて観たと思います。ただ、志村喬さんのお芝居はよく観ていましたので、志村さんならではの抑えた演技といいますか、そういうのが志村さんらしいなと思いましたし、素晴らしいキャスティングだなと思いました。そんな志村さんが演じた渡辺勘治を演じることができるなんて、光栄です」

    ■渡辺勘治の生き方を、どう思われますか?
    「この舞台の中では、渡辺勘治の心模様、心境の変化には相当大きなうねりがありまして。勘治は市役所務めで、どちらかと言うと、いるかいないかわからないような存在なんですよ。朝早く出勤して定時に帰る、という生活を30年くらい続けてきて…生きる実感というのはそれなりにあったんでしょうけども、自分が胃がんで残り半年くらいの命だという宣告を受けた時に…これは勘治がもともと持っていた本質だと思うんですけども、“残りの人生を活かして何かできないか?”と考えるわけですよね。残り半年の人生を何もしない人もいるだろうし、貯めたお金で遊ぼうと思う人もいるかもしれない。そこで勘治は、“人のためになることをしたい、人に喜ばれることはないだろうか?”と考え、公園を造ろうとするわけです。当時は高度経済成長期で、大人の遊び場を造ったほうが経済も廻ったんですね。けれど彼は公園を造ることにこだわる。“子どもたちの幸せ”、それが彼の中では一番大事なことなのではないか、と。それは、彼の考えが美しいとかそういうことではなくて、非常にシンプルなことだったと思うんです。ですから、彼のやったことを美談として捉えるのではなくて、小さなことだけれども公園を造ることに残りの人生をかけたーーそこが、観ている方に大きく訴えかけたんでしょうね」



    ■そこが鹿賀さんの共感ポイントでもある、と?
    「そうですね。“生まれ変わる”わけではないですけれど、1つの考え方が生まれるんです。劇中に“二度目の誕生日”という歌がありまして、そこはミュージカルならではのダイナミズムだと思うんですね。勘治の抑えた芝居だったり、派手さがある舞台ではないんですけれども、あの時代に生きた人間たちの生き様が、観ている人たちの心にどんどん入ってくる。また勘治という男の心の変わりようをドラマチックに描いていて、いい芝居だなぁと、やりながらも感じるところではありますね」

    ■確かに「二度目の誕生日」は、勘治の内面を露わにする歌ですよね。
    「ミュージカルの難しいところでもあるんですけれど、お芝居の中で歌に入る時、僕としては歌うということよりも渡辺勘治の心の叫びが一番大事で。歌だと、どうしても音程やリズムなどの約束事があって“歌う”ということに重点を置くことが多いんですけれど、この『生きる』に関しては、僕は勘治の心模様が伝わればいいな、と。芝居をしている時と同じようなリアリティを大事にしてやろうと思いましたね」

    ■「ゴンドラの唄」にしても、決して歌い上げているわけではなく、心がつぶやいているような歌い方です。
    「そういうところに対して、“こんなにリアリティのあるミュージカルは初めてだ”とか、“心に刺さった”という感想を持ってくださる方が多くいらしたんですよね。ですから今までのミュージカルとは一味も二味も変わった作品だと思います」

    ■演出の宮本亞門さんは、初演時にはガンが進行していらしたとお聞きしました。それもあって、今作に対して並々ならぬ想いを持っていらっしゃるようですね。
    「亞門さんは何もおっしゃらないし、いつもどおり明るくエネルギッシュでね。あの方にとっては、演出をしている時というのが一番の喜び、と言いますか。その熱意は非常に伝わってきますし、とにかく明るいんですよ。どんなダメ出しをする時でも明るく(笑)。役者をその気にさせますし、いろんなアイデアが出てきますしね。そういう意味ではとても魅力的な演出家だと思います」

    ■再演のお稽古場で楽しみにされていることはありますか?
    「初演の時と今年では世界の状況が違うので、芝居でも面と向かってしゃべることは減るだろうし、演出も少し変わるかもしれませんよね。そうすると、お客さんもどれだけ入っていただけるか?という問題もありますし。今は毎日状況が変わっていますけれど、エンターテインメントの業界としては、今の日本人にとって大変必要なことでもあるわけですから、できる限り安全に気を配りながらやれたら…と思います。また、感動的な、人が“生きる”というテーマなのですから、少しでも観てくださった方の力になればいいなと思いますね」

    ■鹿賀さんご自身、生きる喜びを感じる瞬間はどんな時なのでしょうか?
    「やっぱり仕事をしている時が一番うれしいし、楽しいですね。特に今、世界がこういう状況下にあって人の心が渇いている中で、このミュージカルを再演できるというのは何事にも代えがたい喜びです。僕は役者ですので、世界中の人間たちが人を想うとか、人が生きるということを感じていただければいいなと思いますね」

    ■鹿賀さんは、舞台に立つということに対して“怖い”と感じることはあるのですか?
    「今まではそんなになかったですけれど…怖いっていうのとは少し違うのかもしれませんが、ここ半年以上舞台に立っていなかったということもあって、ほどよい緊張感がありますね。もちろん集中してやれると思いますし、メッセージ性の高い作品ですので、そこに無心で入れるかな?という想いはあります」

    ■これまで多くの様々な作品に関わってこられた中で、『生きる』というミュージカルは鹿賀さんにとってどういう作品なのでしょうか。
    「僕は22~23歳の頃に、『ジーザス・クライスト=スーパースター』という作品で主演デビューをさせていただいて以来、50年近くいろんな作品と関わってきましたが、当時は自分の年齢に合ったこういう舞台ができるとはあまり考えてなかったんですね。(映画『生きる』が公開された)昭和27年に比べますと、日本人は10~15歳くらい若くなっているんじゃないかと思うんですけど(笑)、年齢相応の人物を演じ、歌えるというのはとてもうれしいことですし、そういう意味でも大切な作品です」

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    [ミニコラム:癒しのアイテム]

    発声練習
     特に今は、家で1人でいる時間が長いので、あまりしゃべらないんですよね。ですから、たとえば車を1人で運転している時に、発声練習というか、声を出すんですよ。それが数少ない“癒し”といいますか、発散方法となっています。

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    [プロフィール]

    ■鹿賀丈史(かがたけし)
    1950年生まれ、石川県出身。1972年「劇団四季」に入団。「ジーザス・クライスト=スーパースター」で主演デビュー。退団後は『レ・ミゼラブル』をはじめとする数々の舞台のほか、映画やテレビドラマなどで幅広く活躍。今後は、映画『みをつくし料理帖』(10月16日全国公開)などが控えている。


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    Photo ⇒ 大川晋児 
    Text ⇒ 三沢千晶 
    Hair&Make-up ⇒ 松田蓉子
    Styling ⇒ 伊藤伸哉


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    【Stage Information】


    ミュージカル『生きる』

    【東京公演】2020年10月9日(金)~10月28日(水) 日生劇場
    【富山公演】2020年11月2日(月)、3日(火祝) オーバードホール
    【兵庫公演】 2020年11月13日(金)、14日(土) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
    【福岡公演】 2020年11月21(土)、22日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
    【名古屋公演】 2020年11月28日(土)~30日(月) 御園座




     

    原作:黒澤明監督作品『生きる』
    作曲・編曲:ジェイソン・ハウランド
    脚本・歌詞:高橋知伽江
    演出:宮本亞門
    出演:市村正親 鹿賀丈史
    村井良大 新納慎也 小西遼生 May’n 唯月ふうか 山西 惇 他
    企画制作:ホリプロ
    主催:ホリプロ TBS 東宝 WOWOW(東京公演)、チューリップテレビ イッセイプランニング(富山公演)、梅田芸術劇場・兵庫県 兵庫県立芸術文化センター(兵庫公演)、博多座 RKB毎日放送(福岡公演)、御園座 中日新聞社(名古屋公演)
    公式サイト:http://www.ikiru-musical.com/


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