19世紀のアメリカで大きな成功を収めた興行師、P.T.バーナムの半生を描いたブロードウェイ・オリジナルミュージカル『BARNUM』が日本初上演。東京・芸術劇場プレイハウスにて開幕した。
劇中では感染症対策を考慮し、映像を駆使したサーカスシーンを展開。また世界三大サーカスの1つ「木下大サーカス」の特別協力や、シルク・ドゥ・ソレイユなどに出演歴のあるパフォーマー、フィリップ・エマールが道化師にも天使にも見える姿で映像出演し、作品をよりファンタジックな世界観に染め上げた。
ファニアス・テイラー・バーナムを演じる加藤和樹が歌うオープニングナンバー「夢追い人が生まれてくる」(邦題)では、華麗なスティックさばきとタップダンスを披露。注目すべきは彼の表情で、夢を語る時、ショーの話をする時、いつも輝いている。みんなをワクワクさせたいと考えると、自分が一番ワクワクした顔になるのだ。そもそもカラフルなステージが、加藤のワクワク顔でさらに豊かに彩られているように感じた。
さらにバーナムの行動力と、加藤和樹の持ち前の有言実行力が重なって見え、また先に行なわれたfabulous stage Vol.14インタビューで加藤が「人を楽しませたいと思う素直な心はバーナムと同じ」と語っていたことを思い出し、ステージに立つ彼の中にバーナムが降臨しているのでは…?と本気で感じる瞬間が多々あった。
そんなバーナムを支える妻のチャイリーを朝夏まなとが演じ、本当は安定した仕事に付いてほしいと願いつつも、いつも優しく包み込むような表情で彼を見つめていた。「しょうがないわね」と思いつつも本当に愛しているのだなと……演技とは思えない、心からの愛を感じさせる朝夏の一挙手一投足に釘付けになった。
成功を収めた興行師の話ではあるが、物語の中心にあるのはバーナムとチャイリー2人の夫婦愛。加藤と朝夏が歌った「生き方が好き」(邦題)のパフォーマンスは、観る者の心を愛で満たしてくれた。
もちろん絶望もある。経営する博物館が焼け落ちたり、人に騙されたり…。しかしすべてを前向きに捉えるバーナムがとても愛おしく、少年のようにかわいらしくもあった。
周りを固めるキャスト達も皆、魅力的。矢田悠祐はストーリーテラー、親指トム将軍、サーカスのオーナーであるジェームス・A・ベイリーなど3役以上を担うという活躍ぶり。スウェーデンのオペラ歌手ジェニー・リンドを演じたフランク莉奈(綿引さやかとWキャスト)はウットリするほどの歌声に加え、スウェーデン訛りのセリフがかわいく印象的だった。また、本格的ミュージカルは初挑戦だという原嘉孝(内海啓貴とWキャスト)は博物館のオーナーであるエイモス・スカダーを好演。初々しい熱量を感じさせてくれた。そして圧巻だったのが黒人のブルースシンガーを演じた中尾ミエの存在感(サーカスの見世物となるジョイス・ヘスと1人2役)。人生の重みを感じさせるゴスペルは、舞台の雰囲気を異空間に変え、ひとときの安らぎを与えてくれた。
隙間なく披露されるジャグリングなどのパフォーマンスからも一瞬たりとも目が離せない。でも楽しいだけではない。感動や哀しみの涙もある、“人生のドラマ”だった。いや、本当に最高の気分。劇場を出て歩く、駅までの道も胸の高鳴りが止まらなかった。今、観るべきミュージカルである。
(Text ⇒ 三沢千晶)
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ミュージカル『BARNUM』
東京公演:3月6日(土)〜23日(火) 東京芸術劇場 プレイハウス
兵庫公演:3月26日(金)〜28日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
神奈川公演:4月2日(金) 相模女子大学グリーンホール
Music by CY COLEMAN
Lyrics by MICHAEL STEWART
Book by MARK BRAMBLE
翻訳・訳詞:高橋亜子
演出:荻田浩一
映像協力:ウォーリー木下
出演:加藤和樹 朝夏まなと ・ 矢田悠祐 / フランク莉奈・綿引さやか(Wキャスト)/
原 嘉孝・内海啓貴(Wキャスト)/中尾ミエ 他
企画:シーエイティプロデュース
主催・製作:シーエイティプロデュース エイベックス・エンタテインメント
©ミュージカル「BARNUM」製作委員会/岡 千里
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【Magazine Information】
fabulous stage Vol.14
バーナムに扮した加藤和樹さんの最新撮り下ろしグラビア、ミュージカル『BARNUM』ロングインタビューを掲載♪
https://awesomemagazine.jp/2021/03/04/fabulous-stage-vol-14