『渋谷すばると音楽との出逢い』
2023年1月13日に全国公開され、大好評の映画『ひみつのなっちゃん。』。
田中和次朗による完全オリジナル脚本・初の監督作品となる今作は、映画初主演となる滝藤賢一がドラァグクイーンに扮する話題作である。
“オネエ”仲間である“なっちゃん”の突然の死をキッカケに、バージン(滝藤賢一)、モリリン(渡部秀)、ズブ子(前野朋哉)の3人のドラァグクイーンが、お葬式に参列する為に、なっちゃんの地元である岐阜県・郡上八幡へと向かう物語。
“オネエ”であることを知らない家族の為に、なっちゃんの秘密を守り抜こうと“普通のおじさん”になりきる3人が繰り広げる、笑いあり、涙ありのハートフルなヒューマンコメディは、自分自身と向き合うことの大切さをそっと教えてくれる、とてもあたたかな時間だ。
この映画の主題歌を担当したのは渋谷すばる。田中監督と滝藤賢一の心を強く打ったという主題歌「ないしょダンス」を書き下ろした渋谷の音楽との出逢いに遡って話を訊いた。
■ここでは、改めて渋谷さんと、“渋谷すばるにとって音楽とは?”というお話をさせて頂こうと思っています。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。上手く話せるか分からないので、そこもよろしくお願いします(笑)」
■あははは。大丈夫です。けど、頑張って下さいね(笑)。
「もちろん、精一杯頑張ります! いつも頑張ってます(笑)。頑張ってるんですけど、、、、でも、大丈夫です! 頑張ります(笑)! はい。どうぞ!」
■あははは。いきなりパスを投げられましたが(笑)。今回、雑誌『awesome!』で、映画『ひみつのなっちゃん。』(2023年1月13日より全国好評上映中)の主演を務められた滝藤賢一さんと対談されていますよね(2023年1月31日発売)。
「はい。この映画の主題歌の「ないしょダンス」を担当させて頂いたことをきっかけに、いろんなところで対談をさせて頂く機会をもらえたんです。本当に感謝しているし、すごく楽しかったです。『awesome!』での対談でも本当にすごく深いお話をさせて頂いているので、楽しみにしていてもらえたらと思います」
■滝藤さんとお話しされていた中で、“俳優はそれほど大きな影響力を持たないと思っていて。音楽は習慣性を生じる、自分にとってなくてはならなくなるみたいなものというか、それくらい必要不可欠になっていく存在だと思っていて。ものすごく憧れがある”とおっしゃっていたのがとても印象的だったというお話を対談後にされていましたが。
「そう。改めて考えさせられたというか。僕も音楽の力って本当に一瞬で人の人生を変えてしまうくらいのすごい力があると思うんですけど、でも、俳優さんも同じくらいの力を持っていると思うんです。自分にとってそのときに観た映画やドラマがすごくリンクするものだったり、逆に全く違う世界とそこで出逢えたことで、考え方や意識が変わるってことはあると思うんですよね。だから、同じくらいの力があると思うんです」
■たしかに、そうかもしれないですよね。
「“役者とはそういうこと”ということを滝藤さんはおっしゃったのかな? って思っているというか。俺は個人的に、その言葉に役者として“演じ抜くというプライド”も感じたしね。自分でありながらも、ストーリーの中で演じる人である訳だから。俺たちみたいに、ありのままの自分で居るだけではないというか。それは本当に素晴らしいことやなって思いましたね。でも、本当に何に衝撃を受けるかは、本当に人それぞれだと思うし、タイミングが違っていたら、そこでまた違ってくるんだろうし、音楽に限ったことではないと思うんですけどね。でも、滝藤さんがおっしゃっていたように、音楽って、3分4分の中に、歌う人の人生が詰まっていたりすることが多いから、まぁ、もちろんそういう曲ばかりではないけど、そういう意味では、その短い時間の中で鋭く気持ちの中に入って残るっていう感覚はあるのかもしれないなって思いますよね」
■そうですね。渋谷さんが衝撃を受けたというと、やはり音楽ですよね?
「そう。やっぱりTHE BLUE HEARTS。最初に観たときは衝撃過ぎて“え? 何? これ?”っていう感覚だったんですよ。曲そのものというより、とにかくそれまでに見たことも感じたこともない衝撃を受けちゃったんです」
■その衝撃は、いつ、どんな状態で訪れたんですか?
「小学校4年生くらいのとき。僕、埼玉に親戚が居るんですよ。で、昔、そこの家に家族で遊びに行ったときに、親戚のお兄ちゃんのマサシくんがTHE BLUE HEARTSを見せてくれたんですよ! まだテレビがブラウン管のテレビやったなぁ(笑)。そのTHE BLUE HEARTSの映像が、テレビだったのか、ビデオだったのか覚えてないんやけど、音楽番組だったんだけど、それにTHE BLUE HEARTSが出ていて。それを観た瞬間に、体が動かなくなったの。動かなくなったというか、動けなくなったって言った方が正確かな。それがもちろんTHE BLUE HEARTSというバンドということなんて、そのときは知る余地もなく、そもそも“バンド”なんてものを知らなかったから、それがバンドなのか、音楽なのか、ロックンロールなんなのかも分からなかったんですよ。でも、とにかく、見たことのない動きをしてる人が動き回っていて、暴れまくっていて、子供としては“何、これ。激しい、、、”くらいの感覚やってん。でも、全身が痺れたみたいになっちゃって、放心状態になっちゃったというか。その次の瞬間に、“え? 大丈夫? これ、観ていいやつ?”って思っちゃってん。そんな長い時間観てたわけちゃうのに、そのときの俺にはすっごい長い時間に感じたというか。ほんまに時間が止まった気がしてん。分かる? この感覚」
■めちゃくちゃ分かりますよ。私もちょうど同じくらいの時期に甲斐バンドをテレビでたまたま観て、衝撃を受けて、“やだ。どうしよう。何、これ。これ、観ていいやつ?”って同じこと思った経験があるので(笑)。SEIKOの時計のコマーシャルだったと記憶してます(笑)。
「甲斐バンドだったんや! でも、それめっちゃ分かる! あれなんやろな? “これ、観ていいやつ?”って思うよね(笑)」
■はい。なんか、エロ本をベッドの下に隠す感覚。
「なんやその昭和な感じは(笑)!」
■今どきないですよね。まぁ、エロ本ベッドの下に隠したことないですけど、、、。
「若い子分からへんわ! そんな感覚(笑)!」
■あ、そうかもしれないですね(反省)。私なんて、アルバムとかそういうのも分からなかったので、とにかくその曲(甲斐バンドの「HERO(ヒーローになる時、それは今)」)が欲しくてレコード屋さんに行って、探し方も分からなかったから、やっと見つけたカセットを買って帰ってきて。ウォークマンでこっそり聴こうと思って聴いたら、カラオケの練習用のカセットだったんです。
「え!? 何それ。昔はそんなんあったん? インストだったってこと!?」
■インストも入っているんですけど、別の人が歌っているんです。
「え? どういうこと?」
■本当にカラオケの練習用のテープなので、全く知らない人がガイドとして歌っているんです。めちゃくちゃショックでしたもん、、、。
「あははは(大爆笑)。そんなんあったん!? めっちゃ可哀想やな、それ(笑)。お小遣いで買ったんやろ?」
■そうです。
「めっちゃ可哀想やん(笑)。なんかちょっと泣けてくるわ(笑)。笑ってもおてるけど(笑)。でも、めちゃくちゃ分かるで、その感覚。俺もTHE BLUE HEARTS最初に観たとき、最初に思ったのが、“カッコイイ”っていうところよりも、“どうしよう、、、、”やったからね(笑)」
■そこからずっと(THE BLUE HEARTSを)追っかけてる感じですか?
「いや、それがな、小学生やったから、その衝撃をどうしたらいいか分からへんくて。そのバンドがTHE BLUE HEARTSだってことも知らずに終わってしまってん。ほんまにそれこそカラオケ用のカセットテープを買ってしまった感じじゃないけど、どうやったらそれを観れるのか聴けるのかも自分じゃ分からなかったから、そのままになってしまっててん。今みたいにネットやSNSのある時代やったら、すぐに調べて自分で探してたんやろうけどね。マサシくんにも恥ずかしくて聞けなかったから、ほんまにそのままになってしまってん。そこから音楽というものに触れることなく、中学生になって、中1の頃かな、周りの友達がCDとか買い始めるようになって、友達が自分の買ったCDとか自分の兄貴の持ってるCDとかをいろいろと貸してくれて、その中にTHE BLUE HEARTSっていうバンドのCDがあって、それを聴いたときに、ヒロトさんの歌声で、自分の記憶の中にある小学校4年生のときに感じたあの衝撃と、今、自分がCDから聴いているそれがビビビッって繋がってん! で、“あのとき俺がマサシくんに観せてもらった人ら、この人達や!”って記憶が繋がったんですよ」
■そこで初めてTHE BLUE HEARTSというバンド名も知ったんですね!?
「そうそう。そこで知ったの。それからTHE BLUE HEARTSが気になって仕方なくなってしまって、もぉ、そこから漁りまくった感じやったんです。だから、結果として、あの小4の頃に出逢ってたんやなぁ〜って思うというかね。キッカケはそこやったんやなぁって」
■中学生の頃からバンドを?
「やってないんですよ、これが。そこでは、自分でもバンドをやりたいっていう感じにはいかなくて。きっと、普通の流れやったら、そこから自分でもバンド組みたいってなって、音楽を始めるんやろうけど、俺はそこから、とにかく“甲本ヒロト”という人が気になって仕方なくなったんです。当時いろんなファッション雑誌とかにも甲本ヒロトさんが載ってたのもあって、とにかく“甲本ヒロト”という人を知りたくてとにかく載ってる雑誌とか全部読んだんですよ。家の近くの本屋に行って、表紙とかに“甲本ヒロト”って書いてあったら、もう即買っちゃう! みたいな。それが楽しみで仕方なかったんです」
■甲本ヒロトさんはお話しさせて頂くとまた改めて感じますけど、本当に人間としても魅力的な方ですからね。スタイルも本当に絶対的で。DR. MARTENSは甲本ヒロトさんの為にある靴! くらいに思ってます、私も。
「そう! ほんまにそう! DR. MARTENSね! ほんまにそう。まずそこからやったなぁ(笑)」
■そういえば、それまで雪駄履いてたって言ってましたよね(笑)。
「あははは。そうそう(笑)。服とかそれまで全く興味なかったからね。でも、とにかく“甲本ヒロトになりたかった”っていうくらい影響を受けまくって」
■でも、それから間もなくこの業界に入ることになるんですもんね。
「そう。15歳から。でも、その頃はそこまでバンドを自分でやるっていう感覚がなかったんですよね。きっと周りにそういう友達が居なかったってのもあると思う。その環境の中で、みんなと同じことやりたくないなぁって感覚はずっとあった中で、その中でギターを弾けたり、楽器をやれる仲間が居たことで、自分の中にあったTHE BLUE HEARTSへの想いだったり、音楽をやる、という想いが繋がっていったというか。17歳とか18歳くらいの頃やったと思う。その環境の中で出逢った仲間と音楽をやるようになっていった感じでしたね。そのあたりから自分も1人暮らしするようになって、急に自分1人の時間が増えて、自分でもギター触るようになって、その頃から歌詞を書くようになっていって。どんどん音楽が自分の中になくてはならない存在になっていった感覚やったんやと思う」
■渋谷さんにとって“音楽”とは? と訊かれたら、何て答えますか?
「“音楽”とは? 僕にとって“音楽”とは? なんやろ、、、(考え込む)。やっぱり必要不可欠なものなんやと思う」
■音楽って不思議ですよね。
「うん。ほんまに不思議なものやと思う。THE BLUE HEARTSから受けた衝撃もすごかったんやけど、自分の中でめちゃくちゃ胸が締め付けられたというか、なんとも言えない感覚になったのが、忌野清志郎さんの「スローバラード」。昔からめちゃくちゃ好きな曲やねんけど、歌詞の中にある“市営グランドの駐車場”っていうところが、八王子と西八王子の間にある市営グランドの駐車場なんやって。そこ田舎の方やねんけど、めっちゃ絵が浮かぶねんなぁ。それで、余計に引き込まれるというか。それにな、「スローバラード」に関しては、もう一つ夢中にさせられた理由があんねん」
■歌詞、ですか?
「歌詞は全部が好きなんやけど、歌詞じゃなく、クレジットやねん」
■クレジット!?
「そう。この曲ね、作詞に清志郎さんと連名で違う人の名前が入ってんねん!【作詞:忌野清志郎 歌詞:忌野清志郎 みかん】って書いてあんねん! (興奮気味に)すごない!? 俺はその“みかん”に関しての真相は知らないんやけど、もしかしたら、歌詞の中に出てくる“彼女”のことなのかな? って。そう思ったら、なんか、その“みかん”っていうクレジットにめちゃくちゃ愛しさを感じてしまったんですよ!(※“みかん”は当時の忌野清志郎の彼女のあだ名と本人が公言している)すごくない? すごくない? 歌詞は絶対に清志郎さんが1人で書いているんだろうなって思うんですよ。みかんさんとの共作ということじゃなくて、きっと、“このストーリーをくれた子”ってことやろなと。分からないですよ、僕は清志郎さんとお話しさせてもらった訳ではないんで。でも、きっとそうなんやろうなぁって思ったら、どうしようもなく胸がギュッとなってん。ヤバイ、どうしよう、、、って。どうしようも出来へんのやけども(笑)。でも、ヤバない?」
■“そういうとこ!”なんですよね。
「そう! ほんまにそうやねん! “そういうとこ!”やねん、音楽って。どうしようもなくなんねん、気持ちが。どうしてくれんの!? っていう(笑)。分かる? この気持ち」
■あははは。分かりますよ、すごく(笑)。
「もぉ〜! たまんない! っていうね。ほんまに“そういうとこ!”やねん。小学校4年の頃にTHE BLUE HEARTSを観たときは、そんな情緒的なことで衝撃を受けたわけじゃなかってんけど、だんだん感じ方や受け取り方が変わっていくのも不思議なことだよね」
■本当にそうですよね。私も甲斐バンドの「HERO(ヒーローになる時、それは今)」の歌詞の意味を知ったのは、随分後のことですからね。小学生には未知の世界でしたから(笑)。
「あははは。分かる! めっちゃ分かる。後々歌詞の意味を知って、改めて衝撃を受ける感じってあるよね。自分自身の成長と共にあるものやとも思います」
■そうですね。ずっと自分の人生と共に在ってくれる存在ですよね。渋谷さんがそうであるように、今は伝える側の人間として、“渋谷すばる”の音楽は聴いてくれる人達にそういう存在になっていると思いますからね。
「そう。俺ね、自分がやってることって、すごいことやと思ってんねん。これはね、語弊を招く言い方かもしれへんけど、偉そうな意味で言ってるわけちゃうの。本当に責任のあることやと思っているというか。俺ね、俺の音楽を聴いてくれる人達の人生を預かってると思ってやっているんです。俺のちょっとした一言で、人生が変わってしまう人もいるかもしれないと思ってやっているから。だからいい加減にやりたくないし、自分を卑下する感じではみんなの前に立ったらあかんって思ってて。だから、一切手を抜きたくないし、本当にちゃんと向き合ってそこに立ちたいと思ってんねん。嘘もつきたくないし、隠し事もしたくない。本当に正直にみんなと向き合いたいって思っているから。みんなはそれくらい俺のことを大事に思ってくれていると思うから、俺も本当に大事にしたいし。だから頑張るし、頑張れるんだと思っているので」
■渋谷さんらしい真っ直ぐな言葉ですね。
「嘘、つけへんから、、、。つきたくないし。ちゃんと向き合いたいねん」
■今、渋谷すばるとしてどう生きていきたいですか?
「とにかく、ありのまま自然体であり続けたいですね。そして、とにかく渋谷すばるの歌を聴いてくれる人達や関わってくれる人達を楽しませたいし、喜ばせたいし、自分もいろんなことに挑戦していけたらなと思ってます。自分自身が音楽に衝撃を受けて、夢中になれるものと出逢えたみたいに、みんなを元気に、笑顔にしていけたら嬉しいなと思います。出逢えているみんなはもちろん、もっともっとたくさんの人達に知ってもらえたらいいなって思ってます」
インタビュー後編に続きます!
・・・
【プロフィール】
渋谷すばる(しぶたにすばる)
1981年9月22日大阪府出身。15歳よりジャニーズ事務所に所属。2019年よりソロアーティストとしての活動をスタートさせる。2023年の1月11日にリリースされた映画「ひみつのなっちゃん。」の主題歌「ないしょダンス」は、初の書き下ろし映画主題歌となる。2月5日に日比谷公園大音楽堂にて『ライブナタリー 5周年記念公演 “渋谷すばる × THE BAWDIES”』が控える。
公式HP
https://shibutanisubaru.com/
ライブナタリー 5周年記念公演 “渋谷すばる × THE BAWDIES”
チケット販売URL
https://live.natalie.mu/event/5th03?normalbrowse=1
・・・
【MUSIC INFORMATION】
「ないしょダンス」
2023.1.11 Digital Release
https://nex-tone.link/A00110101
「7 月 5 日」
2022.9.7 Digital Release
https://nex-tone.link/A00104132
「ぼーにんげん」
2022.10.5 Digital Release
https://nex-tone.link/A00105889
「これ」
2022.11.2 Digital Release
https://nex-tone.link/A00107214
「Stir」
2022.12.7 Digital Release
https://nex-tone.link/A00109012
・・・
【MOVIE INFORMATION】
映画『ひみつのなっちゃん』
全国公開中
公式サイト
https://himitsuno-nacchan.com/
監督・脚本:田中和次朗
主題歌:渋谷すばる 「ないしょダンス」
出演:滝藤賢一 渡部秀 前野朋哉 カンニング竹山 豊本明長 本多力 岩永洋昭 永田薫 市ノ瀬アオ(821) アンジェリカ 生稲晃子 菅原大吉 本田博太郎 松原智恵子
製作:東映ビデオ 丸壱動画
配給:ラビットハウス
©️2023「ひみつのなっちゃん」製作委員会
・・・
【クレジット】
Photo 柴田理恵
Text 武市尚子
・・・