和真とひなが手を取り合うように、
いろんな人と手を取り合うことで
自分の苦手な部分を克服できるんじゃないかな?
娘に無関心な父と、父を忘れてしまった娘のものがたり―――というキャッチフレーズにハッとさせられる映画『この小さな手』。娘に無関心な父親・和真を演じる武田航平さんに話を伺いました。そこに込められたメッセージとは…?
■武田さんが演じた和真という父親を中心とした周りの人達の温かさやありがたさを感じる映画でした。それがドキュメンタリー映画かと思うくらいにリアルに描かれていて、とても身近に感じられました。あとは、お父さんのリハビリストーリーのようでもありましたね。
「まさにそのとおりで、親子の話ではあるんですけれど、和真という人間が成長していく姿というか、できなかった部分や苦手だった部分を克服していくような、おっしゃっていただいたように一種のリハビリですよね。まさに佐藤恋和ちゃん演じる“ひな”が傍にいたことによって、自分が改善されていくような話だと思います。娘に一番助けられていたのは、和真本人なんじゃないかな?って」
■妻が事故で入院し、娘が児童施設に預けられ、家に一人になってやっと家族の存在の大切さに気づくというところが身近に感じられました。
「本当に滑稽ですよね。もちろん和真が悪いというわけではなくて、絵を描く才能があり、それが認められてお金を稼ぐために頑張ってはいるんですけどね。ただ、目を向けなければいけなかったところに無頓着だったという。現実にもよくありますよね、妻や交際相手に捨てられてから気づくって(笑)。そういう意味ですごく人間っぽいなと思いました」
■また和真を取り巻く周りの人達も、実際にいそうな人達ばかりで。
「そうなんですよ。悩みであったり苦しみや辛い経験っていうのは、人間だったら誰にでもありますよね。そういうものがあって今ここにいるんだ、だからこういうことをするんだっていうのが各登場人物にすごく表われているなと、僕も感じました」
■実際に和真を演じるにあたって、役作りはどう考えられていましたか?
「僕自身は子供はいないんですけれど、親も兄弟も妻も、家族がすごく大切で好きなので、なぜ自分の分身でもある子供に目を向けられないんだろう?という理解する難しさがありました。それと同時に、まったく理解できないわけではなく、自分も俳優という仕事は和真と同じ表現する仕事ですから、認められなければいけない、それで生活をしていかなきゃいけないというところでの共感はあるんです。ただ、和真はこんなに頑張ってやってるのになんで?と思ってしまったんですよね。だから最初は理解できなかったんですけれど、今振り返ると和真を演じていく中で、ちょっと未熟な男だったんだなと理解できるようになっていったのかな?と思いますね。そんな男が子供や周りの人達によって成長させてもらえる、そういうところがみなさんに届けばいいなという想いは意識して演じていたような気がします」
■中田博之監督とはどんな話し合いがありましたか?
「中田監督は父親として“子供ってこうなんですよ”というところは、けっこうアシストしてくださいましたね。いろんなお言葉をいただいて思ったのは、やはり父親ってパーフェクトじゃないんですよ。僕自身も昔は、父親ってなんでもできるスーパーヒーローと思ってたんですけどね。なので父親としてのリアルなところを、監督からはたくさんアドバイスしていただきました」
■ご自身のご両親を振り返ることはありましたか?
「ありましたね。あの時なんでこうしてくれなかったんだろう?とか(笑)。でも、そうもできないところもあったんだろうなと思えるようにもなりました。だから和真はこういう態度をとってしまったんだな~って。親といっても一人の人間ですからね。父親や母親に対して、なんで…って思ったことを後悔したりもしました。今思えば、子供に対して一生懸命だったからこそなんですよね」
■家族って近くにいすぎて、感謝の気持ちを忘れてしまうこともありますよね。
「そうなんですよね…。“ありがとう”という言葉を素直に言えなかったりとか。何年後かに気づいたり、いなくなっちゃってから気づくとか、ありますよね」
■共演者のみなさんは、ご一緒されていかがでしたか? 妻の小百合役の安藤聖さん、ひな役の恋和ちゃん。
「小百合は入院してしまってあまり一緒にいるシーンはないんですけれど、でも一緒にいる時のお芝居で、その想いを植えつけてくれたので、傍にいないのに存在できる心強さがありました。寝たきりのお芝居なのに常に向き合ってくれていて、すごく感謝しています。恋ちゃんとは親子になれたかどうかはわからないですけど、常に僕にくっついてくれていて、親戚のお兄ちゃんみたいな感じを持ってくれていたんですよね。甘え上手でかわいい子で、チョコをくれたりしました(笑)。年齢は全然違いますけど、本当に一緒に戦ってくれたような気がしますし、(役者として)年齢はまったく関係ないなと思いましたね」
■素晴らしい演技だったと思います。
「本当にすごいですよ。才能なんでしょうけど、素直だからなのかな?とも思いました。眠い時は眠そうにするし泣いちゃうし、でも決してみんなに迷惑をかけることなく一生懸命頑張ってくれたなって思いますね。和真という役を通して恋ちゃんと向き合うことで、自分も不得意なことから目を背けないで向き合って、成長していければいいなと思わされました」
■不得意なこと、あるんですか?
「たとえばこの世界でやっていく上で負けたくないとか羨んだりしてしまう部分っていうのが、人間だったら多少なりともあるじゃないですか。不得意というかそういう自分ですよね。でも、そうやって人と比べてもしょうがないし、羨ましいと思う感覚を持たなくていいんだなって。自分一人じゃなにもできないし、この作品だってスタッフさんや他の素晴らしい役者さんの力があったからできたわけで、自分のペースでしっかりと進んでいけばいいんだなと、この作品を通してより思ったんです」
■そうでしたか。“周りの人達がいたからこそ”という意味では、和真にとってもそうですよね。たとえば和真がよく行く小料理屋の女将役の柚希礼音さんと、常連さん役の寺脇康文さん。あんな常連さんいるよな~って笑いましたよ。
「(笑)本当にそうですよね。寺脇さんってあんなに背が高くてカッコいいのに、カウンター席にいつもいそうな人になっちゃってて、すごいですよね。しかも現場でず~っとそういう居ずまいだったので、上手いなぁ…素晴らしいなと思いました。柚木さんもね、小綺麗な小料理屋さんでピシッと着物を着て品もあって、ちゃんと歴史を重ねているママでしたよね。あんなママがいたらお客さんいっぱい来ちゃいますよね(笑)」
■わかります(笑)。“こんな人いそう”といえば、児童相談所の職員役の松下由樹さんもそうでした。
「松下さんは女性らしさと強さを持ち合わせていて、それが溢れ出ている、本当に役のとおりなんですよ。セリフの言い回し1つにしても妥協せずに監督と打ち合わせをしたり、厳しさと優しさをもって作品に対する愛情を現場で見せてくださったので、僕からしたら感謝しかないですね」
■また、和真の住むアパートの大家さん家族も素敵でした。
「津田寛治さんとは2度目の共演なんですけど、お芝居のスキルという部分では、日常がそこに流れていることをちゃんと成立させてくださるというか、本当にその役が実在している感覚に陥るんですよ。ナチュラルなお芝居という部分で引っ張ってくださいましたね。…津田さんすごかったです」
■ご自身も素晴らしい経験をされたんですね。この映画を通して武田さんが伝えたいことは、どんなことでしょうか?
「和真が家族と向き合えなかった…というのは、形は違えど誰にでも起こり得ることだと思うんですね。直視したくない現実とか。そういうところに目を向けるのはむずかしいですけども、『この小さな手』というタイトル通り、和真とひなが手を取り合うように、いろんな人と手を取り合うことで自分の苦手な部分を克服できるんじゃないかな?と、僕はこの映画を通して思ったので、みなさんにもそういうところを観ていただきたいですね」
■ありがとうございます。では、今後の目標や挑戦したいことはありますか?
「やっぱり、自分らしく生きたいなと思います。俳優って演じることで精神を削ってしまうと思うんです。どんな仕事もそうだと思うんですけどね。僕もそういう経験があるので、だからこそ納得のいくものを選んでいきながら、役と向き合いながらお仕事を続けさせていただけたらいいなと思います。あとは、健康な心と身体で1年を過ごせていけたらいいですね」
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【共通テーマ音楽コラム「あなたにとってのラブソング」】
Hi-STANDARD「DEAR MY FRIEND」
大好きなバンドです。“離れ離れでしばらく会ってないけど調子はどうだい?”と、相手を想う歌なんですよ。DEAR MY FRIENDですけど、それぞれの大切な人に当てはまる素敵な歌だと思います。
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【プロフィール】
武田航平(たけだこうへい)
1986年1月14日生まれ。東京都出身。最近の出演作は、映画『てぃだ いつか太陽の下を歩きたい』『秘密の花園』『GOZEN-純恋の剣-』『星くず兄弟の新たな伝説』、ドラマ「ながたんと青と-いちかの料理帖-」「ウツボラ」「霊媒探偵・城塚翡翠」「オールドファッションカップケーキ」「刑事7人」「競争の番人」「晩酌の流儀」など。
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【MOVIE INFORMATION】
『この小さな手』
4月8日(土)より全国順次公開
公式HP
https://holdyourhand-movie.com/
原作:郷田マモラ/吉田浩 『この小さな手』
監督:中田博之
脚本:守口悠介
出演:武田航平 佐藤恋和 安藤聖 辻千恵 三戸なつめ 伊礼姫奈 三田村賢二 浅茅陽子 柚希礼音 津田寛治 松下由樹 / 寺脇康文
製作:「この小さな手」製作委員会
制作プロダクション:NeedyGreedy
配給:フルモテルモ
© 映画「この小さな手」製作委員会
【クレジット】
Photo 大川晋児
Text 三沢千晶
Hair&Make-up 七絵
Styling 網野正和
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