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    2024年7月26日 田辺桃子 日本×フィリピン合作映画『DitO』インタビュー

    Photo 柴崎楽

     日本に妻子を残し、フィリピンで奮闘するプロボクサー神山英次と、その娘・桃子との親子の絆を描く日本×フィリピン合作映画『DitO(ディト)』。本作の監督であり、主人公の英次を演じた結城貴史とともに、W主演を務めた「桃子」役の田辺桃子。結城との間で結ばれた深い絆を伺わせるエピソードや、自身初の海外撮影となったフィリピンでの様子、本作を通して感じたことなどを語ってくれた。


    ■結城さんのインタビューに「親子役をいつかやろうと本人とも約束してました」とありましたが、本作への出演の経緯から教えてもらえますか。

    「もともと結城さんとは私が出演した作品のプロデューサーとして出会って、そのあと、舞台でお互いに演者としてご一緒して、私のことを気に入ってくださったみたいなんです(照笑)。それで、“いつか俺は桃子と一緒に映画をやるから”と言ってくださったんですけど、最初にご一緒したのは私が中学二年生の時で、舞台で共演した時もまだ学生だったので、私を励ますために言ってくれたんだろうなと思っていたんです。“大きい夢を掲げて、一緒に頑張ろう!”みたいな。期待をし過ぎてへこみたくないっていうのもありましたし(苦笑)。でも、はっきり覚えてはいないんですけど、この映画の撮影が始まる2年前ぐらいに脚本が届いて、読んでみたら親子役だったという流れでした」

    ■結城さんは約束を守ってくださったんですね。撮影はいつ頃行なわれていたのですか。


    「まさにコロナが始まった頃で、2020年の2月に1ヵ月ぐらいフィリピンに行って撮影をしてという感じでした。ただそのタイミングでは8割ぐらいしか撮れていかなったので、昨年の11月くらいにもう一度フィリピンに行って残りを撮ってきました。実質的な撮影期間は1ヵ月半くらいなんですけど、撮り終わるまで3年かかりました」

    ■そんなに撮影時期が空いていたんですか。今、お聞きして驚きました。映画を観ていてそんな時の流れは一切感じていなかったので。

    「でも、子役の子達の背が伸びてしまったり(苦笑)。私自身も21歳から24歳という年齢の変化があって、顔つきが変わってしまって。撮り直しもしたので、繋がっているシーンの間だけ、今の私で撮ることもあったから、正直、結構ドキドキでした。メイクさんの力を借りつつ、いろんな記憶を呼び戻しながら撮影をしました」

    ■今、「メイクの力」とおっしゃいましたが、ほぼノーメイクのように見えたのですが。

    「基本はすっぴんに見えるようにしていました。高校を卒業したばかりの年齢で、田舎に住んでいたという設定だったので、なるべく素朴な感じに見せたいと思って。ただ私だけでなく、他のキャラクターも衣装やメイクにはすごくこだわって作られています」

    Photo 柴崎楽

    ■田辺さんにとって結城さんはどんな存在の方ですか。

    「俳優だけでなく、今回は監督、プロデューサーもやられていますし、ご自身で制作会社(映像制作会社KURUWA.LLC)を立ち上げていたり、0から1を生み出す、作り手としての熱い想いがある方だと思っています。作品の中の細かな一つひとつから始まる情熱には、いつも刺激をもらっています。それから、こんなに年下の私のことも、一緒にもの作りをするプロジェクトの一員として対等に扱ってくださって、年齢や経験は関係なく、みんなでものを作っていこうとする気持ちはとても素敵だなと感じています。第二のお父さん的な感覚もあります」

    ■撮影はほぼフィリピンで行なわれましたが、そもそも海外での撮影の経験はあったのでしょうか。

    「初めてでした。だからどうなるか撮影前はまったく想像がつかなかったです。しかも1ヵ月ぐらいフィリピンに滞在して撮るということだったので、貴重な機会だと思っていました。そこは、私が演じた“桃子”というキャラクターと、気持ちがリンクする部分があったような気がします。現地で撮影をしながら、慣れたと感じたり、やっぱり慣れないと思ったり。急にどっと疲れが出たり。人の温かさに触れて、あっという間に周りの人達を好きになったり。そういう部分は“桃子”を演じる上で活かせたらと思っていました。ただ、“桃子”のほうが私以上に不安を抱えていたとは思います。ほぼ記憶に残っていない父親に、たぶん、どこにいるかも正確に把握はしていなくて、知らない国で、知らない人づてにようやく会いに行くって、どんなに不安だっただろうと思いました」

    ■田辺さんにも不安がありましたか。

    「ありました。スタッフは日本とフィリピンと半々で、キャストは結城さんと母親役の尾野真千子さん以外、全員フィリピンの方だったので、どうやってコミュニケーションを取ればいいのかと。けど、実際に行ってみたら、フィリピンのお国柄もあって、皆さん本当に温厚で人情溢れる方ばかりでした。私のつたない英語でも、“僕達は(理解することを)諦めないから、最後まで言ってみて”って、ちゃんと聞こうとしてくれるんです。たくさん助けていただきました」

    ■演じた“桃子”というキャラクターについてもお聞きしたいのですが、まずこの“桃子”という名前は、田辺さんが演じるから“桃子”になったのですか。

    「私が聞いたお話だと、脚本を書く時点で、私で当て書きをしてくださったそうで。それで、脚本が完成した時点で役名をどうするかという話にはなったらしいのですが、「桃子に演じてもらうから、“桃子”でいいんじゃない」ということで、結果的に私と同じ名前になりました」

    ■当て書きの事実はいつ知ったのですか。

    「脚本をいただいた時です。私も役名は変わると思って読んでいたので、“この役名ってなんですか?”と聞いたら、“実は……”というふうに話をしていただきました」

    ■最初に脚本を読んだ時はどんな印象でしたか。

    「“桃子”と私は、置かれている環境はだいぶ違いますけど、行動力とか、一度決めたことは貫くところとか、似ている部分があると思いました。私も一度決めたことは、自分が納得するまで貫きたいタイプなので。行動力については、私以上に“桃子”のほうがあるので、そこはすごいなと思いながら演じていました。他にも負けず嫌いなところであったり、父親につい対抗心をあらわにしてしまったり、素直になれない不器用なところも分かるなって思っていました」

    ■顔も覚えていない父親のもとへ、日本での暮らしを捨てて押し掛ける“桃子”はすごいなと。一体、どんな心情だったのだろう?と考えてしまいました。

    「その辺りに関しては、私は自分自身がフィリピンに降り立った時に感じたことや、移動中の車窓からの景色を見ながら思ったこととかを考えながら、“桃子”も同じように感じていたのかな?と想像しました。私自身がフィリピンで生活を送ることで、あの時“桃子”はこう思っていたんじゃないかと気付かされることもありました。今回、キャラクター作りに関しては、監督とは深い話はしていなくて。普段は仲がいいんですけど、撮影中は“桃子”と英次が言葉数の少ない親子でもあったので、あまり話さないようにもしていたんです。撮影以外でのそういう関係性作りからも、“桃子”の気持ちを想像していきました」

    ■“桃子”はセリフが少なくて、心情を表情や行動から伝えるような役柄でもありましたよね。

    「余計なセリフがほぼなかったというか、いわゆる説明的なセリフがなかったので、私の中では演じていてすごく楽しかったです。普段、自分が見る作品も、説明的なセリフがないものが好きなんです。だから、自分がそういう役を演じられるのは、挑戦であり、楽しみでした。言葉にできない部分をどうやって伝えるのか。“分かってください”と訴えるようなやり方ではなく、観ている方が“こう思ってるんじゃないか”と感じ取れるようなシーンにするにはどうすればいいのかを考えながらやっていました。なので、あの時と同じ演技は、たぶんもうできないって思います。あの環境で、あの時だからこそできたもので、作りすぎない、お芝居にならないようにということを意識していました」

    Photo 柴崎楽

    ■そんな“桃子”ですが、唯一、父親の英次に向かって想いをぶつけるシーンがありましたね。

    「あのシーンはギリギリまでどうしようか迷っていました。そうしたら、監督から直前に“台本通りでなくていい、むしろ、その時に出た素の反応を大事にしたい”と言われたので、そこから変に構えることはやめました。“桃子”も今まで言いたいことがいっぱいあったんだろうと、自分と対話をしながらやっていきました。ロケ地は実際のスラム街の中にあって、周りは迷路のように住宅がひしめき合ってました。そこに撮影を見ようと人が集まってくるし、雨を降らせるために、少し離れたところから水を引いていてこなくちゃいけなくて、とにかく大変でした。なので、“ここで決めるぞ”と、後悔のないようにやり切ろうと思えたシーンでもあったので、より一層、熱がこもったのかなとも思います」

    ■観ていて、“桃子”の想いが痛いほどに伝わってきました。

    「私自身、セリフを言いながら、自分にも刺さっていました。“桃子”に対して、“そうだよね、ここしかないよね”“すごい頑張ったよね”って、想いが湧いてきて。そんな気持ちを持ってもなお、父親に向き合おうとする姿勢は、本当にカッコいいと思いました。初めて“桃子”の想いがこぼれるシーンだったので、私にとっても思い入れは強いです」

    ■本作は日本公開を前に、数々の海外の映画賞を受賞しています。それについてはどう受け止めていますか。

    「純粋に嬉しいです。今回はW主演という形で、自分が大きく関わった作品で賞をいただくのは初めてだったので。スタッフも含めたみんなで獲った賞だと受け止めています。映画は日本とフィリピンの合作になりますが、海外の人達はどう反応するんだろう?と思っていたんです。そしたら、親子の話に胸を打たれたという方が本当に多くて。人と人とが向き合う姿は、国に関係なく、通じ合えるものがあるんだなと感じました」

    ■ご自身にとっての糧や自信にもなりましたか。

    「私にとって初めての海外での撮影で、そこに至るまでの不安に打ち勝てたこととか、“桃子”の行動力や芯の強さに触れることができたこととか。今回に限らず、役として生きた時間があると、素の自分にも何かしら影響を受けるんですけど、たくましさや強さというのものが、今の自分に通じている気がしています」

    ■いよいよ7月26日から日本での劇場公開が始まりますね。

    「ずっと海外の映画祭を廻っていたので、やっと日本の皆さんにも観ていただけるという感じです(笑)。今の時代に合うテーマを扱ってると思いますし、どんな世代の人にも観て、考えてもらえる作品だと思います。楽しみにしていただけたら嬉しいです」

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    共通テーマ音楽コラム「あなたにとっての夏ソング」

    WANIMA「TRACE」
    邦楽ロックにハマっていた時期によく聴いていました。曲調がアップテンポなところもそうなんですけど、MVが山の上で撮影されていて、メンバーの3人が円になって向かい合って演奏しているのを、空から映しているところとかが夏っぽいなと。熱い歌詞もすごく好きです。夏フェスにはまだ行ったことはないのですが、フェスに行って聴いてみたい曲です。


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    【プロフィール】

    田辺桃子(たなべももこ)
    1999年8月21日生まれ。神奈川県出身。最近の出演作は、ドラマ「お迎え渋谷くん」「いちばんすきな花」「東京貧困女子-貧困なんて他人事だと思ってた-」「癒やしのお隣さんには秘密がある」 「こっち向いてよ向井くん」、映画『先生の白い嘘』『ラーゲリより愛を込めて』『愚鈍の微笑み』など。現在、ドラマ「笑うマトリョーシカ」に出演中、「クラスメイトの女子、全員すきでした」にもゲスト出演が決定している。



    【クレジット】

    Photo 柴崎楽
    Text 瀧本幸恵
    Hair & Make-Up 小原梨奈
    Styling Sho Sasaki 


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    【MOVIE INFORMATION】

    映画『DitO』
    7 月 26 日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

    出演者:結城貴史 田辺桃子 尾野真千子 モン・コンフィアード ブボイ・ビラール ルー・ヴェローソ レスリー・リナ ミゾモト行彦  P-san 鈴木さくら マニー・パッキャオ(特別出演)
    監督:結城貴史
    音楽:towada(JiLL-Decoy association) & 中村恵介
    制作プロダクション:KURUWA.LLC(曲輪合同会社)│配給:マジックアワー
    ©DitO製作委員会 Photo by Jumpei Tainaka