【前編】
夫との子供ではないと知りながら、夫婦の子として産み、育てる「托卵」を題材にしたドラマ『わたしの宝物』。回を重ねるごとに濃度を増すストーリーと共に、時に切なく、時に狂おしく、どうしようもなく優しく繊細に主人公と寄り添う主題歌「明日」にも注目が集まっている。このひと筋縄ではいかない物語といかに対峙し、言葉とメロディを紡ぎ、歌声を響かせたのか、野田愛実に訊いた。
■前回、「自分の中に理想のドラマ主題歌のあり方がある」とおっしゃっていたじゃないですか。『わたしの宝物』を観ながら、毎週、これか！って思ってます。
「物語ととても素敵にリンクさせていただいているので、主題歌を歌えて幸せだなって、毎週・毎話感じていますね。例えば第3話では、主人公の美羽が亡くなったと思っていた幼馴染みの冬月くんと図書館で再会するっていう、ドラマチックな場面で印象的にサビのフレーズが響いてきて。“来ちゃダメ、会わないで”と思いながらも、心の奥で、よし！ってなりました！」
■ドラマの制作陣のコメントに、「歌声に惚れ込み、電撃オファーしました」と書かれていました。実際、今回の話は野田さんの元にどんな形で届いたのでしょう？
「“この声ならきっと主人公・美羽の言葉にならない想いを代弁してくれると思うので、美羽に寄り添った楽曲をお願いします”というお話をいただいて。すごく光栄に思いましたし、初めてのGP帯のドラマでしかも木曜劇場と言えば子供の頃から好きな作品がたくさんあって、まさか私が！という、喜びと同時に責任も感じて。特に『わたしの宝物』は難しいテーマのドラマなので、視聴者の方がどういう立ち位置で観ても、ダイレクトに胸に届く曲にできたらいいなと思って作りました。」
■「托卵」という主人公の禁断の選択が様々な方向へ波紋を広げていく。視線を置く場所によって、ガラリと雰囲気の違う曲になりそうです。
「まずは美羽に寄り添う形で書いたんです。ただ、台本を読ませていただいて最初に感じたのが、Aメロの〈何故 人は叶わなかった夢に 執着してしまうの〉っていう。これは美羽だけでなく登場人物全員に当てはまる話だし、ドラマを離れて日常を生きる中で、誰もが直面した経験のある感情なんじゃないかと思って。今を大切にすればいいのに、どうしても過去を引きずってしまう気持ちを楽曲の最初に持っていくことで、その後に出てくる覚悟により、陰影をつけるというのかな。」
■〈執着〉って言葉が登場する曲はなかなかないよなぁと思いつつ、でもそれがあるからサビで繰り返される〈明日〉に眩い希望を感じるんですよね。
「ありがとうございます。自分に置き換えて、1番大切なものは何かな？と考えた時に、私の夢は歌い続けることなので、そこに執着してきた先に、今の私がいると思います。そして、夢を叶えるため、夢を守り抜くために、手放さなければいけなかったものもいっぱいありました。人を傷つけたりするのは、なるべくしてはいけないと思うけれど、自分の信じた道を進むにはこれからもきっと戦わざるを得ない場面が来ると思います。そういった決意が、繰り返したその〈明日〉には込められていますね」
■曲中に２度登場する〈深い青〉というフレーズも気になっていて。深い闇ではなく青である意味合いについても伺いたいです。
「2番に空の描写が出てくるんですが、日が昇る直前と日が沈んだ直後の時間帯の空を“薄明”と言うんです。その空の色が作品に合うなと感じて。明るみに出ることも、闇に向かうことも、どっちに行くこともできないあの曖昧な青色を、葛藤を抱えて自問自答を繰り返す人間の心情に重ねて、〈深い青〉という表現を使いました」
■まさに〈開けていくのか 暮れていくのか〉の狭間なんですね。
「そうなんですよ。いくら考えても「目の前の道をどう進んでいいのかわからない」みたいなもどかしい瞬間がみなさんにもあったと思うんです。それでも次第に光が降り注いで、青はどんどん散り乱れていく、そんな情景に重ねて書いています」
■だからわからないことはたくさんあるけど、最後は〈痛みも怖さも抱きしめて 生きていくから〉。いろんなものを受け止めて生きてゆくんだ、という心だけは決まっている。
「この楽曲を書くにあたっては、綺麗事や、悲劇のヒロインとして捉えられるように書きたくなかったんです。もちろん傷つけることも、傷つけられることも、肯定はしないけれども自分が犯してしまった罪を背負っていく覚悟をしないと、何も守れやしない。しっかりとその意識を持つことが大事なんだよっていう戒めと言いますか、私自身にも言い聞かせている感じですね。」
■美羽に寄り添った曲というオーダーを受けて主題歌を書き下ろしても、結局、ちゃんと野田愛実の新曲になるっていう。
「ありがとうございます。なので、今回は自分の中にある闇というか、いつまでも過去の出来事を悩んでしまったり、執着してしまったり、つい甘えてしまったり、そういう自分の嫌だな・直したいなって思う部分とどう向き合うかが重要で。主題歌を作る楽しさを味わいつつ、自分の内側へ深く潜り込まなければいけなかったので、結構苦しみながら書きました。」
■向き合わざるを得ないドラマですもんね。
「1つ1つのフレーズがどういうふうに聴き手に響くかみたいことを、いろいろな角度から考えながら、悩みました。1番は初めて耳にした人の心にスーッと入っていくように、なるべく難しい表現を使わず、シンプルな言葉を選ぶようにして、可能な限り丁寧に作っていきました。」
■それを届けるヴォーカルがまた、めちゃめちゃ繊細で、超絶難しい。
「難しいです、本当に！！」
■前回、大事なパートはその言葉のイントネーションを心に留めてメロディに乗せていると話していましたが、「明日」はほぼ全部が大事なパートというか。
「そうですね。実は大元となるデモは、ドラマに出会う前からあったものだったんです。メロディと〈明日〉で始まるサビの歌詞だけあって。今回のお話をいただいた時に、あのデモが絶対に合うな、〈明日〉ってフレーズを使いたいなと思って、そこから物語に合わせてメロディと歌詞を変えていきました。なので、サビに登場する2回目の〈明日〉も最初は違う言葉を使っていたんですが、繰り返したほうがみなさんの心に残るんじゃないかと考えたら、こうなったら〈明日〉ですべてを掴もう！ という気持ちで、2回出しました！！」
■レコーディングにはどのようなこと意識して臨んだのでしょう？
「メジャーデビューしてからリリースやライヴを重ねて、自分の歌い方も多少ブラッシュアップされてきた中で、 AメロとBメロは柔らかさを重視しています。美羽の心の内側にある繊細な部分を、弱すぎず、だけど強すぎず、1つ1つ大切に置いていく作業を大事にしています。そして、サビでは思いっきり強い意志を爆発させていくっていう」
■確かに。〈あの日 あの瞬間〉の“あ”と〈明日〉の“あ”はまったく違いました。
「〈あの日あの瞬間〉の“あ”はちょっとエッジヴォイスというか。下から戻るように、浸透させていくように歌っているんです。サビの〈明日〉はもう全力でいくので毎回、外さないか怖いです。」
■そういえば、ライヴ当日にもドラマをリアタイされていましたね。
「そうです、戻りの新幹線の席でパソコンでドラマを観てスマホでつぶやくっていう。」
■ドラマを愛するヘヴィー視聴者から観て、主題歌「明日」の立ち位置はいかがですか？
「1話と3話はものすごくエモーショナルな場面で聴こえてきて、切ない、辛いと思って観ていました。あと、2話の出産シーンでサビが流れるというのは、私は全然想定していなくて。でも、命が生まれた瞬間の〈明日〉は、また別の意味を含んでいたなと感じました。〈あの日 あの瞬間が 生きる意味になった〉、まさにあれこそ決意だなと強烈に感じて、視聴者として震えたし、思わず涙が溢れてしまいました。どの場面で“明日”が響いて、どういう感情になるんだろうっていうのが、楽しみであり、怖くもあり、とにかくドキドキです！」
（後編に続きます）
【共通テーマ音楽コラム「MY LOVE SONG」】
Mr.Children「君が好き」
超有名曲ですけど、定期的に聴いては黄昏れていますね。最初に聴いたのは中学生だったのかな。でも浮かぶのは当時の自分じゃなくて歌の情景なんです、楽曲の主人公になってしまうというか。うわっ、アパートの脇で缶コーヒーを買っちゃうんだ、君が来るのを持っているんだ、なんて素敵な描写なんだ！って思いながら、いつも聴いてます。
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【プロフィール】
野田愛実
のだえみ。三重県松阪市出身。中学生の頃から作曲を始め、シンガーソングライターを志す。2020年のコロナ渦に手探りでJ-POPやK-POPのカバー動画の投稿を始め、現在YouTube登録者約25万人、総再生回数8, 000万回以上を誇る。10月～11月には『野田愛実 1st Asia Tour “time”』を開催。ファイナルは、11月29日(金) 東京・SHIBUYA DIVE。
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【クレジット】
Photo:大川晋児（Sirius）
Text:山本祥子
Hair&Make-up : 齋藤美紀
Costume
tops,onepiece,boots : MAISON SPECIAL necklace : SENTIMENTS ring,bracelet : 本人私物
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【CD Information】
Digital Single 「明日」
2024.10.31 Release
フジテレビ系10月期木曜劇場『わたしの宝物』主題歌
配信URL:
https://avex.lnk.to/ashita
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