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    2022年10月28日 寺島しのぶ 映画『あちらにいる鬼』インタビュー

    ©資人導

     直木賞作家の井上荒野の小説『あちらにいる鬼』は、作家である父・井上光晴と母、父と関係を深めていく瀬戸内寂聴をモデルに創作した濃密な物語だ。映画化の話を聞いて少し驚いた。廣木隆一監督、脚本は荒井晴彦、寺島しのぶと豊川悦司のダブル主演、さらに妻・笙子役で広末涼子という顔ぶれに胸が高鳴った。そしてスクリーンから漂う生身の人間の湿気みたいなものに包まれながら、激しく心をざわつかせた。得度式のシーンのために剃髪し、現在はベリーショートまで伸びた赤い髪が至極素敵な寺島しのぶさんにお話を伺った。

    ■今作へのご出演の経緯からお願いします。

    「廣木さんと私とで映画を作りたいねっていう話から企画が立ち上がって。何かできるものはないかと探している時に、この作品が候補として挙がってきて。豊川さんも出ていただけることになって、という感じです」

    ■作品を重ねてこられたとは言え、「映画を作りたいね」で企画が立ち上がるなんて、廣木監督とは強固な信頼関係なのだと確信しつつ。いろんな監督とお仕事されてきて、廣木組の魅力を言葉にするならどうでしょう?

    「廣木さんが醸し出す独特の空気感と、無駄がない撮り方なのかなぁ。あとは長回しが多いから、それがすごく楽しいんです」

    ■重圧ではなく、楽しいんですね!

    「舞台じゃないので、間違えたら繰り返しできるし、でもみんな“1回でキメてやろう”っていう気持ちでがんばる。そこがとても好きですね。1シーン、1カットでしか出せない空気感って確実にありますから。久々の廣木組でしたけど、そのあたりは変わってないと感じたし、完成した映画を観ても、本当に出て良かったなぁと思いました」

    ■私は笙子の青い炎のような佇まいに、“こんな広末涼子、初めて見た!”って思いました。

    「でしょ! 私も大好きです。うん。だから廣木さんはすごいんですよ、やっぱり」

    ■ちなみに原作に対する印象というのはいかがでしょうか?

    「私はもともと井上荒野さんのファンで、もちろん『あちらにいる鬼』も読ませていただいていて。いや、もう、実の娘であり、小説家であり、すべてを踏まえて書いているわけで。ドラマチックにグワッと膨らませることもなく、むしろ月日を追って淡々と描かれているところが見事というか。ヘンにいじくり回さずにこのまま映像化して欲しいな、でもなかなか難しいだろうなぁと思っていましたね」

    ■最初にお名前が挙がった、白木篤郎役の豊川さんとの共演作品もまた多いですよね。

    「豊川さんとは久しぶりの仕事だったので、正直、不安な気持ちもあったんです。でも会った瞬間、大丈夫だなと思ったし。“1シーン、1シーン、丁寧に撮ろうね”っていう誓い合いはしましたが、逆にほんっとにそれだけ。豊川さんに任せていれば、あっという間に名シーンが生まれる。一番化学反応が起きる役者さんかもしれないですね」

    ■お風呂で篤郎に頭を洗ってもらうみはるがとてもかわいくて。そのあと髪を切るように促して、そして投げかける「あなたが私を殺したのよ」ってセリフにゾワッとして。挙げればきりがないのですが、寺島さんの記憶に残っているセリフや光景を教えてください。

    「『ヴァイブレータ』の時も、『やわらかい生活』の時も、廣木さんはモニターを見ない人で、カメラの横にくっついてる監督だったんですよ。でも今回はモニター前にいることが多くて、お互い、年月を重ねたなぁなんて思ってて(笑)。で、出家後の寂光のタクシーのシーンは、篤郎さんが入院している病室のシーンと、笙子さんの病院の屋上でのシーンと同じ撮影日だったんです。時間は刻々と過ぎて、タクシーのシーンを撮る頃には、陽が傾き始めてしまって。スタッフが“暮れちゃうとダメだから、明後日かな”とか言い出して。それは絶対にヤダー!と思って」

    ■気持ちの持って行き方が変わりますよね。

    「まさしく。1日空いたら何にもかもが嘘になっちゃうと思ったから、相当強い想いで臨むことにしたんです。その時に初めて廣木さんが“俺もタクシーに乗っていい?”って言ったんですよ。なので運転手さん、照明さん、音声さん、カメラマンさん、そして廣木さんが車の中で縮こまって撮影してて。けど車に乗ってくれたのは嬉しかったし、是が非でも納得させる芝居をしてやろうと思ったし。そう、あれは執念のこもったシーンなんです」

    ■あとは、今もまだ髪の毛が短くていらっしゃいますけど、やはり得度式のシーン。特殊メイクなどでも対応できたと思うんです。

    「私の中では、もうやるしかないよねって感じでした。もちろん迷いましたけども」

    ■その後の仕事にも関わってきますから。

    「そうなんですよ。だから心は8割方固めつつ、最後までグヂグヂ言ってましたね(笑)。やっぱり映りが綺麗なほうがいいじゃないですか。けど頭の形って剃ってみないとわかんないし、そういうヘンなプレッシャーもあって」

    ■それはもう、バッチリお美しくて。しかし私はその前、バリカンで刈った髪の毛が白い紙の上に置かれる時に、チラッと横目で見るみはるが、お母さんに怒られながらも、お母さんの作ってる料理が気になって、ついお鍋を覗きこんじゃう子供みたいな感じがして。

    「この取材の前に荒野さんとの対談があったんですけど、みはるさんは捨てるために出家したんじゃなくて、生きるために出家したんだっておっしゃってて。私も髪を剃る前はもっとドラマチックなものを想像してたんです。でも生きていく中での一部でしかないんだ、出家したからと言って何も変わらないんだなって、そんな気がして。まぁ実際に尼としての生活を送ってないから、こんなことが言えるのかもしれないけれども。生前の寂聴さんを振り返っても、お人柄はそんなに変わられていないじゃないですか」

    ■確かに。99歳の生涯を通して、喜びも、悲しみも、愛も、仕事も、一瞬一瞬が濃すぎるというか。演じられてみて、みはる/寂光の人生をどんなふうに感じられましたか?

    「おっしゃる通りだと思います。寂聴さんのどの本を読んでも、切に生きるということが書かれています。叩かれても、叩かれても、“別に。だから何?”くらいの姿勢で自分の生き方を全うするのは素晴らしいことだし、恐ろしいパワーですよね。なので、出家したのも、篤郎が自分に対して情熱がなくなったこと以上に、自分が篤郎を好きじゃなくなってきちゃったっていう状況になるのがすごく嫌だったんじゃないでしょうか。結局、みんな自分本位なんですよ。自分で好きになって、自分で幕を引いて。でもそこに潔さを感じるし、大人だなと思う。それは時代かもしれないし、この人達だからなのかもしれないし」

    ■しかも私達は今、亡くなられたこと知っているから、ご自身の言葉通り、切に生き抜いて、ちゃんとしまわれた感じがします。

    「ね。本当にお会いしたかった。そもそもはお会いしてから撮影に臨む予定だったので。寂聴さんだったらなんでも話してくれる気がして、いろいろぶつけてみたい、一緒にぶっちゃけトークをしたいなぁと思っていたんです。それはとっても残念でしたね」

    ■お話を伺いながらふと、この映画は女性と男性では響き方が違うのかも!?って。

    「確かにそうかもしれない。でもだからこそ、男性女性関係なく、みなさんに観てもらいたいなって思う。こういう映画に人が入らなかったら、若者中心のキラキラ映画だけになっちゃうんでね。偏るとつまらないじゃないですか。あっちもありの、こっちもありっていうほうが絶対に面白いから。公開日、11月11日にいいスタートが切れるように、是非、映画館に足を運んでいただきたいと思っています」



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    【MOVIE INFORMATION】

    映画『あちらにいる鬼』
    11月11日(金)全国ロードショー

    原作:井上荒野「あちらにいる鬼」(朝日文庫)
    監督:廣木隆一
    脚本:荒井晴彦
    音楽:鈴木正人
    エンディングテーマ曲:浜田真理子「恋ごころ」
    出演者:寺島しのぶ 豊川悦司/広末涼子
    高良健吾 村上淳 蓮佛美沙子 佐野岳 宇野祥平 丘みつ子
    夏子 麻美 高橋侃 片山友希 長内映里香 輝有子 古谷佳也 山田キヌヲ
    製作:「あちらにいる鬼」製作委員会
    ©︎2022「あちらにいる鬼」製作委員会

    https://happinet-phantom.com/achira-oni/

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    【共通テーマ音楽コラム「冬に聴きたい1曲」】

    浜田真理子「song never sung」

    映画のエンディングテーマだからっていうわけじゃないですけど、浜田真理子さんはいいと思いますよ。冬の寒さに染み入る湿気感、ものすごくあります。それを求めて『あちらにいる鬼』を観に来ていただいてもいいくらい(笑)。ただ、1曲挙げるなら、「song never sung」をおすすめします。

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    【プロフィール】

    寺島しのぶ(てらじましのぶ)
    1972年12月28日生まれ。京都市出身。最近の出演作は、ドラマ「競争の番人」「女系家族」、映画『天間荘の三姉妹』『空白』『キネマの神様』『Arc アーク』『ヤクザと家族 The Family』、舞台『物語なき、この世界。』、アニメ「アーヤと魔女」など。現在、ドラマ「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日系にて毎週木曜21:00~放送)に出演中。

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    Text 山本祥子
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