佐藤二朗×Novel Core 映画『名無し』インタビュー

映画『爆弾』では謎の容疑者・スズキタゴサクを怪演し、『第49回日本アカデミー賞』の最優秀助演男優賞を初受賞するなど、唯一無二の存在感を観る者の脳裏に強く刻み込んだ佐藤二朗。5月22日に公開される映画『名無し』は、そんな佐藤自らが原作・脚本・主演を務める作品だ。
彼が5年前に書き上げた脚本が漫画になり、そして待望の映画化がされた本作の主題歌を担当するのは、新世代ミクスチャーアーティスト・Novel Core。日本武道館やアリーナでの単独公演を成功させ、TVアニメ『キングダム』のエンディングテーマなども手掛ける彼は、あまりにも過激なテーマと特殊な世界観ゆえに一度は封印されかけた作品といかに向き合い、自身初の映画主題歌を制作していったのか? また、物語の創造主たる佐藤二朗が表現したかったものとは?
“名前”という誰もが見過ごしてしまいがちな普遍に潜む“業”と“哲学”について語り、ジャンルを超えて共鳴し合う二人の対談をお届けする。

■本作『名無し』は、右手で持ったものが他人からは見えなくなるという特殊能力を使い、主人公の山田太郎が次々に殺人を犯していく物語ですよね。その設定の斬新さに、とにかく衝撃を受けたんですが、こういった発想はどこから生まれてきたのでしょうか?
佐藤二朗「僕が映画の脚本や舞台の戯曲を書く時って、2つのパターンがあるんですよ。“こういったストーリーを書きたい”というのが最初のモチベーションになることもあれば、“このシーンを書きたい”もしくは“演じたい”というところから始まることもある。この作品の場合は後者で、5年くらい前に、僕、ダイエットをしてたんです。例えば寝る前の2時間は食べないほうがいいとか、砂肝よりもササミのほうがいいとか、ダイエットの豆知識っていろいろありますけど、そういう話を普通に女性としているのに、手には鋭いナイフを持っていて。でも、相手はまったく気づいてなくて突然刺される……っていうシーンをやりたくなったんです」
■なぜ、そんな猟奇的なシーンをやりたくなったのでしょう?
佐藤「自分が書く上で、もしくは演じる上で、綺麗事を恐れずに若い人たちに伝えることも大事なら、当たり前というものに冷や水を浴びせることも大事だと思っているんですね。僕、“コメディとシリアスをどういうふうに分けてますか?”って、、よく取材で聞かれるんですけど、常に“分けてない。コメディとシリアスは同じ地平にある”って答えているんです。笑ってるはずなのに涙が出てるとか、怒ってるのに途中で笑っちゃうとかってこと、人間にはあるじゃないですか。そういう白と黒で割り切れない曖昧なところにすごく興味があって。ダイエットの話という本当になんでもない日常会話をしながら、相手は包丁を持ってるっていう、そんなシーン僕は見たことがないから」
■そんなの誰も見たことありませんよ……と言いたいところですが、漫画版『名無し』の冒頭は、そのとおりのシーンになってますよね。
佐藤「そうです、そうです。だから作画の永田諒先生が、僕の脚本に忠実に描いてくださったんですよ」

■ただ、映画のオープニングは少し違うものになっていて、つまり、映画化にあたって脚本を書き換えられたということですか?
佐藤「はい。漫画の時点で8稿まで書いたんですけど、監督の城定秀夫さんと打ち合わせしていく中で、11稿くらいになりました。そこでひとつ大きく変えたのが、主人公の山田太郎を基本しゃべらせないようにしたことだったんです」
■言われてみれば、漫画版の山田太郎は普通にしゃべってますもんね。
佐藤「そうなんです。じゃあ、なんで変えたかというと、この脚本を書いたあとに『爆弾』のお話をいただいたんですが、そっちでは僕、しゃべりまくってるじゃないですか。山田太郎が過去と決別するためにバリカンで頭を剃るシーンがあるんですが、これも当初は丸坊主にする予定で、だけど『爆弾』のタゴサクも坊主頭の上に、両方ともたくさん人が死ぬという共通点がある。なので、なんとか『爆弾』と差をつけたくて、じゃあ、いっそしゃべらない人物にしようってことになったんですね。ただ、どうしても山田太郎が話す必要のある箇所もあるから、そこの台詞は台本でもフォントをおどろおどろしい感じのものに変えてもらいました。それは普段あまりにもしゃべらないから、もう、声帯が退化して圧し潰されたような声しか出ないっていうことの表現なんですよ。キャストやスタッフが読む台本ってみんなに対するプレゼンだから、フォントは絶対に変えてくれってプロデューサーにお願いしたんです」
■なるほど。しかし、結局のところ山田太郎は丸坊主になりませんでしたよね。
佐藤「本当はバリカンで剃ってるところを撮影して、カットがかかったあとはメイクさんに調整してもらう予定だったんですけど、この中途半端な髪形を鏡で見た時に“この状態、いいかも”と思ったんです。頭のおかしい人であることも表現できるし、『爆弾』とも差別化できるしということで監督を呼んだら、監督も“あ、それいいじゃないですか”って言ってくれたので、この髪型になりました。おかげで撮影中、プライベートでは帽子なしじゃ生活できなかったですね(笑)」

■そうして改良を重ね、完成した脚本をお読みになって、Novel Coreさんもかなりの衝撃を受けられたのでは?
Novel Core「すごかったですね。ホントに並大抵の覚悟で曲を書いちゃいけないなっていうのは、脚本を読んだ時点からめちゃくちゃ感じていて」
佐藤「10回くらい読み返されたそうです」
Novel Core「はい。フルで10回以上読ませていただきましたし、この作品以外のものも含め、佐藤二朗さんの過去のインタビューも読み漁りました。何がきっかけで、どういったことが積み重なって、こういう脚本になっているのか、自分なりに知りたかったんですよね。でも、やっぱり直接やりとりさせていただかないと、自分の望む次元に曲が達しないと思って、お手紙みたいなものを出させていただいたんです。申し訳ないことに」
佐藤「いやいや、とんでもないですよ。僕こそ怖気付きました。今まで主題歌を作る過程から参加したことはなかったんです。Coreさんとやりとりさせていただいて、ものすごく真剣に考えてくださっているのがわかったから、こっちも負けてられないというか、それ相応の覚悟で相対しないとなって怖気付きました。畑は違うけれど、すごく共鳴できる表現者の一人だなって思いますね」
Novel Core「ありがとうございます。で、二朗さんからいただいたメールの返信に書かれていたことにもしっかり目を通した上で、この作品に向き合って書き下ろさせてもらったのが『名前』なんですね。本当に不思議な脚本で、読むたびに作品の見え方が自分の中で変わるというか、大事だなと思うポイントが毎回変わっていくんです。それが結果的に作品としての余白になって、観る人それぞれが自由に解釈できるぶん、それぞれの哲学がそこに生まれるだろうから、だったら僕も自分の哲学を100%で曲にぶつけてみようと書かせてもらいました」

■公式HPでも「名前をつけるという行為自体に対して哲学を持ちたいな、というのが、脚本を読ませていただいて出てきた気持ちです」とコメントされていましたが、すぐに“名前”というテーマにはたどり着きましたか?
Novel Core「まあ“すぐ”というほどではないんですけど、何回も脚本を読んでいく中で、やっぱり“名前”という要素が、すごく大事な立ち位置を担っている気が僕はしたんです。山田太郎って本当に日常と切り離されているというか、まったく違う次元を生きていて、でも、普通に街の中にいるし、みんなと当たり前のようにすれ違っているんですよね。だけど、そこに会話が生まれたりとか、社会に馴染んでいる感覚というのが作品の中には全然ない。そこで何をテーマにしたらいいんだろう?というのは、すごく悩んで考えたんですけど、やっぱり普遍的で誰もが忘れてしまっているようなこと、改めて語るには値しないと思うようなことをテーマにした方が、作品とちゃんと紐付くんじゃないかと」
佐藤「当たり前すぎて、ね」
Novel Core「はい。そこで“あ、名前だな”と。みんな生まれた時に、当たり前のように名前をつけられるわけで、その時点で名前もなく拾われた山田太郎とは差があるわけじゃないですか。そこからだなとさかのぼっていって“名前”というテーマにたどり着いた感じです」

■そういったNovel Coreさんの思考は、さっき佐藤さんがおっしゃっていた“当たり前に冷や水を浴びせる”ということにもシンクロしますし、エンドロールで流れる歌詞も、恐ろしいほど作品とマッチしていますよね。
佐藤「そうでしょ! 恐ろしいほどマッチしてる。Coreさんとやりとりをしていて、僕は早い段階で“名前をつけるという行為”をテーマにするということは聞いていたんですよ。みんな当たり前のように名前をつけるけれど、それは何らかの責任を伴う行為だし、その対象が人間であるのなら必ず寿命が来るので、いつかは別れが来る人に名前をつけるということになる。そういった行為に着眼点を置いていると知った時点で、もう“勝ったな”と」
Novel Core「僕、映画を観ていて1回目の涙が出たのも、名前に関するシーンなんですよ」
佐藤「あそこね。切ないですよね」

■山田太郎が右手で触れたものの名前を知っていた場合、その命を奪ってしまうという設定ですし、そもそも映画自体のタイトルが『名無し』ですから、佐藤さんの中でも“名前”というのは重要な要素だったのでは?
佐藤「そうですね。『名無し』というタイトルも、5年前に書いた時点で付けていました。そういえば、さっき取材してくれた記者さんが“この物語はSNSに対する批判ですか?”と聞いてきたんですよ。要するに右手で持っているのはスマホで、名前がないことで責任が生じずに、手当たり次第に人を攻撃していくという。しかも、匿名掲示板のハンドルネームって大体“名無し”じゃないですか。全然そんなつもりで書いた話ではないんですけど、あ、そういう捉え方もあるのか!と驚きました」

■そこが先ほどNovel Coreさんもおっしゃっていた“余白”ということなんでしょうね。あまりにも特異な能力を持った人物の、ある意味での絶望が本作の一つの軸になっているとは思うのですが、それでも救いが完全に無いわけではなく、観終えた時には言葉にできない気持ちになってしまいました。
佐藤「ありがとうございます。それでいいと思います。だからね、僕らも“見どころは?”とか聞かれても、“見てくれ”としか言いようがない! 過激なテーマと特殊な世界観がゆえに、お蔵入り寸前だった物語を編集者が見出してくれて、まず漫画になり、今回映画になったという流れなんですけど、その“過激なテーマと特殊な世界観”というのが何なのか?というのも、あんまり言葉にはできないんです。強いて言うなら“神の存在”ってことかなと思っていたけれど、SNSの話を聞いて、この作品は想像以上にいろんな捉え方ができるんだなと気づいたんですよね。山田太郎の持つ刃は、神に対してのようにも見えるし、日常を生きる僕らに対してるようにも見えるし、当たり前というものに対してるようにも見える。そこは人それぞれのはずなので、ぜひ、実際に見て、感じてほしいです」



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■プロフィール■
佐藤二朗
さとうじろう。1969年5月7日生まれ。愛知県出身。近年の出演作は、映画『爆弾』『新解釈・幕末伝』『THE KILLER GOLDFISH』『女神降臨』『アンダーニンジャ』など。現在、主演ドラマ「夫婦別姓刑事」(フジテレビ系にて毎週火曜21時〜)、NHKラジオ第1「佐藤二朗とオヤジの時間」(第1・2・3 土曜15時05分~)、NHK「歴史探偵」(毎週水曜22時~)、NHK Eテレ「マチスコープ」(毎週土曜22時50分~)が放送中。また、配信漫画『ヤマナミ』(原作:佐藤二朗)が配信中。
Novel Core
のべるこあ。2001年1月18日生まれ。東京都出身。ラッパー、シンガーソングライター、アート・ディレクター。SKY-HI主宰のマネジメント/レーベル・BMSGに第一弾アーティストとして所属。2024年1月、日本武道館での単独公演を完全ソールドアウトで成功させ、2025年2月には自身初となるアリーナ単独公演を決行。2026年1月、メジャー4thアルバム『PERFECTLY DEFECTiVE』発売。2月にはアニメ『刃牙道』のエンディングテーマとして書き下ろした最新曲「Mountain Top」を配信リリースし、現在は『PERFECTLY DEFECTiVE TOUR 2026』を開催中(最終公演:6月26日@豊洲PIT)。
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■クレジット■
Photo ウザワアカネ
Text 清水素子
Hair & Make-Up 佐藤二朗:今野亜季(A.m Lab)/Novel Core:Asami Harano
Styling 佐藤二朗:鬼塚美代子(Ange)/Novel Core:Self Styling
Costume
佐藤二朗:シャツ ¥25,300(AT-DIRTY/New name! TOKYO TEL 03-3414-7880)
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■MOVIE INFORMATION■


映画『名無し』
2026年5月22日(金)全国ロードショー
原作・脚本:佐藤二朗
出演:佐藤二朗 / 丸山隆平 MEGUMI / 佐々木蔵之介
監督・共同脚本:城定秀夫
主題歌:Novel Core「名前」(B-ME)
配給:キノフィルムズ
©佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ ©2026 映画「名無し」製作委員会
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